『NOVA 8』

一説よると、古代マヤ文明の暦では、今日・明日あたりが世界最後の日(!?)なのだそうですが。
そんな年の瀬に、今年読もうと思ってて読みそびれていた作品を、なんとか少しでも片付けてしまおうという、“終末”在庫一掃特別企画(笑)・その3。
と言っても、今回の『NOVA 8』の場合は、いつものように次巻が出る頃に感想を、と思っていたら、珍しく刊行予定がずれ込んで、年明け、1月9日になったからなのですが。
ともあれ、以下、今年7月発行の、SFを中心に書き下ろしの新作短編を集めるオリジナル・アンソロジー、《NOVA》シリーズ第8巻の感想です。


(残りの16行、ネタバレあり)

  • 飛浩隆(とび・ひろたか)先生・『#銀の匙』『曠野にて』

全国民が無償で利用できる「最低保障情報環境基盤」と、それと相互作用し、使い手に関するあれこれを書記してくれるエージェントが、急速に普及し始めた近未来のお話。
2編同時掲載となるこれらの作品はともに、『NOVA 1』に収録され、第41回星雲賞日本短編部門を受賞した、『自生の夢』の前日譚にあたるというわけで。
改めて、その『自生の夢』について。

〈ぼく〉:「〈ぼく〉は微小なCassyの一時的な協働形態であり、数千、時には数万の単位エージェントがそれぞれに行う膨大な報告をある約束事に従ってまとめ、書き出しているのです。」

間宮潤堂:「それはまた、ややこしそうだ」
〈ぼく〉:「……人間は違うのですか?」

人類の生み出し続けるあらゆる情報が、言語化され相互に関連付けされる、巨大なデータベース上に、突如、深刻な不具合〈忌字禍〉が発生して……というお話。
ユーザーの検索意図を推測し、複数の原典を参照しつつもっとも適切な結果を書き出す、検索・書字エージェント〈Cassy〉の、ここで言う“ユーザー”とはだれなのか?
〈忌字禍〉の本質であり、名もなく、だから『書くこと』の外に在るもの、風の綴りでしか書けないものとは一体、なんなのか?

アリス・ウォン:「風は見えない。飛行機雲がねじれたとき、その形として見えるだけ。忌字禍も同じ。見えない。著作物がねじれ、死んで石になるときに、その力が見える。その欲望が解る」

アリス・ウォン:「——ねえ潤堂さん。いまどき名前のないものなんて、他にはどこ探したってないわ。物凄い価値よね」

(『NOVA 1』自体もすでに、電子書籍版がリリースされていますが、『自生の夢』をはじめとする『NOVA 1』収録作品は、それぞれ単独での電子版購入も可能です。)


自分で自分を監視する、究極の監獄からの解放を、「祈り」というクオリアで高らかに歌い上げる、山田正紀(やまだ・まさき)先生の『雲のなかの悪魔』や。
25世紀半ばの火星と地球を主な舞台に、かつて引き受けるのに失敗した現実を、23年間の月日をかけて選び直す、東浩紀(あずま・ひろき)先生の『オールトの天使』など。
そのほかの『NOVA 8』収録作も面白かったです。