『NOVA 7』

今年3月発行の、SFを中心に書き下ろし新作短編を集めたオリジナルアンソロジー・《NOVA》シリーズの第7巻。
第7巻とは言っても、収録作はすべて独立した短編なので、本書を楽しむためにこれまでの《NOVA》を読んでいる必要はありません。
来週末、6月29日には、同じく大森望先生が、日下三蔵先生とともに編者を務める、『年刊日本SF傑作選 拡張幻想』が発売予定。
そして再来週、7月6日には、この《NOVA》シリーズの最新巻・『NOVA 8』が刊行予定ということで、以下、その一つ前の『NOVA 7』の感想です。


(残りの22行、ネタバレあり)
行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。
方丈記』(青空文庫)の有名な冒頭部分ですが、物語を書く(あるいは読む)というのは、そうした“泡沫(うたかた)”をそっとすくい上げる行為なのかも知れません。

  • 北野勇作先生・『社内肝試し大会に関するメモ』

いったい何が起きているのだろう。
時間の流れがどうにかなったのか。
同じところをぐるぐる回る渦のようなものに巻き込まれたのか。ただまっすぐ流れるだけでなく、渦に巻かれたり逆流したり。

《NOVA》シリーズではおなじみの、北野勇作先生の社員シリーズ(?)。と言うか、“ブラック企業”社員シリーズとでも呼ぶべきかも。
タイトル通り、社内肝試し大会に関するメモのお話ですが、『かめ探偵K』の感想と同じ締めになりますけど、心身に支障を来すまで、ご無理なさいませんように――。

痛覚や温冷覚などの感覚を、まわりにいる人間に拡散・体感させてしまう少年と、逆に痛覚や温冷覚を生まれつき欠いている少年のお話。
生まれや家庭環境など、境遇もまるで違う二人が出会って、触れ合って――。

「おとなになれよ……イオリ。雑に生きるなよ。雑にやるとおまえなんか簡単に死んじまうんだから。つまんないことで途中でくたばったりしないで、絶対、生き延びておとなになれよ」

ラストの「やわらかい」笑いもすごく良かったです。

  • 片瀬二郎先生・『サムライ・ポテト』

それにしてもこの場所っていったいなんなんだろう。ここをとおるたくさんの人間は、いったいどこからきて、どこへ行こうとしているんだろう。

駅のなかのコンコース、商業エリアのファーストフード店に配備されたコンパニオン・ロボットに、ある日とつぜん、未知の感覚が芽生えてきて……、というお話。
まさに“遠くに連れて行ってくれる列車”に飛び乗った、そんなふたりの行く着く先は――。

ためしに片手を挙げてみた。窓に映るサムライ・ポテトも応えるように手を挙げた。あれは自分だった。サムライ・ポテトはここにいた。まちがいなくここにいた。


ほかに、約2週間というタイトなスケジュールながら、巨匠の代打を立派につとめた、宮内悠介先生の『スペース地獄篇』。
『NOVA 3』収録の『メデューサ複合体』に引き続き、今度は金星を舞台にした宇宙土木シリーズ、谷甲州先生の『灼熱のヴィーナス』。
木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』同様、きっと地道な取材を重ねたに違いない(?)、妙にリアリティのある、増田俊也先生の『土星人襲来』。
「拡張現実」越しに再生される、死んだ彼女との日々を描いた、扇智史先生の『リンナチューン』など、バラエティーに富んだ作品集でした。