『NOVA 4』

SFを中心に書き下ろしの新作短編を集めるオリジナル・アンソロジー《NOVA》の第4巻。今年5月発行。
昨日、8月8日には、シリーズ最新刊、『NOVA 5』が発売になっています。
『NOVA 5』掲載作の中では、伊坂幸太郎先生の「超絶技巧の時間SF」というのがすごく気になります。ほかにも、上田早夕里先生や、須賀しのぶ先生の作品なども収録。
さてそれでは、いつものようにマイペースで(笑)、今頃、『NOVA 4』の感想です。


(残りの18行、ネタバレあり)

ずいぶん前に仕事も引退し、今は隠居生活を送る主人公は、ある日、当たり前のようにお昼の帯番組を観ていたが、今日はなにやら、いつもと様子が違っていて……。
デビュー作『姑獲鳥の夏』と同時に構想を練っていたという作品。“幻のデビュー作”。
よく、デビュー作にはその作家のすべてがある、とか、作家はデビュー作へ向かって成熟する、とか言いますが(言いますよね?)。
もしかしたらこうした死生観が京極先生の核にあるのかも、と思うと、なかなか興味深かったです。

へえ、とぼくは笑った。「世界が思ったものと違っていて、それで動揺するなんてわがままな子供みたいだな」ぼくは笑う。「別に自分のものでもないというのに」

第13回中原中也賞を受賞するなど、詩で有名な方だそうで。独特の文体で、不思議なお話ですが、実は……。
この「実は……」というのが用意されていて、さらにそれをわりと説明し尽くしている感じで、意外性がありました。
王子の、世界との対峙の仕方が、いじらしくて、いとおしい。

  • 山田正紀先生・『バットランド』

どうやら認知症を患っているらしい主人公は、入れ替わり立ち替わり現れるろくでもない連中に、ある男の居場所についてしつこく詰問されるのだが……。
これまで誰かのために何かをしたことは一度もないような老詐欺師が、複雑に記憶を・意識を交錯させながら、いつしか人類を・宇宙を救う!
いきなり冒頭から、『コウモリであるとはどのようなことか』の引用とかが出てきて、ちょっと驚きました。
――だからこれは、祈りのようなものなのかも知れません。
記憶というのがたとえ、何か意味ありげな写真のように、不確かで儚いものであったとしても。人は生きていくし、そして何かを残していくのだ、というような。


毎回なにやら、シンクロニシティがあるような、そうでもないような、《NOVA》シリーズですが。今回は、巻頭と巻末作品がともに、おじいちゃん主役SFでした(笑)。
そのほかの作品も面白かったです。