『魔術師たちの言想遊戯 I』

タイトルにある「言想遊戯」は、「ロゴスゲーム」と読みます。
今年2月に発売された、第12回エンターブレインえんため大賞・特別賞受賞作。


(残りの16行、ネタバレあり)

店長:「つまり文っていうのは、言想魔術っていうのはさ、突き詰めればたった二つのことしか言ってないんだよ。それが何だか分かるかい?」

なんだこれは?!っていうのが、読んでみての第一印象でした。なんだかよく分からないけど、すごく変わった作品だな、と。
主人公は、「ごく普通の」高校生なんですが。
しかし、彼がバイト先に選んだ書店は、実は、「言葉の想像喚起力によって言霊を魔術的に使うことが出来る」「言想魔術」の使い手たちが集う、魔術結社だった……。
普通はこうして感想を書くときでも、2回目以降はわりと流し読みなんですけど。この作品の場合は、けっこう真面目に、じっくり読んでしまいました。
で、結局どうも、そうした第一印象の原因は、たぶん意図的な、読者を混乱させるような作りにあったみたいです。
まず第一章からして、主人公の主観視点と、客観的な推論とが、まぜこぜにされてます。1回目読んでる最中は、気がつきませんでしたけど。
そして第二章以降も、主人公の性格ががらっと変わったり(もちろんちゃんと理由はあるし、テーマにも関わってくるんですが)。さらに、裏切りや、どんでん返しもあり。
あと、どうやら大量に、有名作品のパロディを混ぜ込んであるみたいで。
自分が知っているものなら、これはパロディだな、で済むんですが。知らないものだと、えっ、これって実は、何か意味あるの?と、変に深読みしてしまいます(笑)。
そんな風に、何が重要で、意味があるのか、誰が真実をつかんでいるのか、一切あてに出来ない感じで。
主人公が、危うい立ち位置・微妙な立場に置かれているのも相まって。ロジックのジェットコースターと言うか、理解の綱渡りと言うか、かなり振り回されました(笑)。
各ページ、結構みっちり文字も詰まってますし、そういう意味でも、相当読みごたえがあります。
そのほか、登場人物もみんな個性的、と言うか、主人公も含め、結構くせのある人たちばかりで。無理に感情移入しようとしなければ(笑)、なかなか楽しいです。
タイトルに「I」と巻数表記(?)もありますし、積み残しの謎や設定もあるようですが。きれいにオチも決まってるので(笑)、この続巻があるかは分かりませんけど。
言語学的なアイデアや、言葉の力によって運命を切り開く、みたいなところは面白かったし、次作が楽しみな作家さんでした。