『ビスケット・フランケンシュタイン』

実写映画化された『私の優しくない先輩』や、TVアニメ化もされた『狂乱家族日記』などで知られる、日日日(あきら)先生の、2009年度Sense of Gender賞・大賞受賞作。
(ちなみに、同年同賞・話題賞は、樺山三英先生の『ハムレット・シンドローム』でした。)
日日日先生と言えば、アニメ化が発表された『ささみさん@がんばらない』や、『大奥のサクラ』や、マンガ原作など、現在も多数のシリーズを進行中ですが。
先週、3月2日には、さらなる新作・『いけめん彼女 1』が発売になっています。そして来月、4月15日ごろ?には、『反抗期の妹を魔王の力で支配してみた。』も刊行予定。
それでは話を戻して、3月8日、国際女性デーの本日は、日日日先生の『ビスケット・フランケンシュタイン』の感想です。
(なお、この『ビスケット・フランケンシュタイン』は、現在、紙の書籍版は入手しづらい状況のようですが、すでに電子書籍版もリリースされています。)


(残りの16行、ネタバレあり)

孤独に生まれた少女は、それを自覚しているのかもしれない。
他者と関わり、触れあい、言葉を重ねることで、曖昧な自分を抱き寄せている。
さもなければ、彼女はほんとうに、宇宙に独りぼっちなのだから。

身体が徐々に腐敗し、別のものに置き換わる奇病が発生し始めた、世紀末、1999年から始まるお話。
その病の治療法を研究する過程で、妄想じみた非道な好奇心から、十数人の患者の少女の遺体を継ぎ接ぎすることで、偶然誕生した女の子が主人公です。
さて、この奇病は当初、18歳以下の少女にしか発症しないとされていたのですが。年齢はともかく、少年と少女、男と女の違いって、いったい何でしょうか。
身体的特徴? 外見? 遺伝子の違い? しかしそもそも、体は男性だけど、心は女性といったケースなどもあって、なかなか一筋縄ではいきません。
見た目は同じなのに――身体を構成する物質が、細胞が、何もかも人間とはちがう主人公は、不老不死なのですが、子孫を残すことはできない、この世に独りぼっちの種族。
『お母さん』ともいえる人物との哀しい別れの後は、病が原因で、偏見を向けられ、差別や虐待を受けている患者たちを訪ねて回りますが。
そうして見えてくるのは、生命や感情や価値観、さらには自分の意識までもが、あやふやで曖昧で、錯覚に満ちたものであること。
自分の人生という、それぞれの『物語』を生きる人々との出会いを通して、ある『目的』をもって行動をしていた主人公の心も、またゆっくりと変わっていきます。

絶望に暮れたこともあった。けれど、今では満ち足りている。『目的』が叶った。『物語』は、たぶんハッピーエンドになる。
愛して。愛されて。
夢と願いを叶えて、不相応なぐらいに、満たされた。

「独りぼっちは、寂しいですからね……」と言う主人公は、果たしてどんな『物語』を、読者の心に運んで・届けてくれるのか――。
さまざまな科学的事実や仮説やフィクションがやさしく継ぎ合わされた、センス・オブ・ワンダーのある面白いジェンダーSFでした。