『眠らない魔王とクロノのセカイ』

月見月理解の探偵殺人』シリーズで知られる、明月千里(あかつき・せんり)先生の、先々月、2012年1月開始の新シリーズ。
来月、4月15日ごろ?には、早くもシリーズ第2巻が刊行予定ということで、4月に入ると新年度でまたバタバタしますし、今のうちに第1巻の感想を。


(残りの17行、ネタバレあり)

いや、動けない。コトは武器を構えただけだ。まだ手を出して来てはいない。
わからない。ここで何をすべきなのか。どの判断が正しいのか。
口の中が渇き、視界が歪んでいく。
どうした。何をやっている。動け、動いて目の前のこいつを――。

『世界』と呼ばれる力場を作り出し、その領域内で特別な能力や法則を発現させる『世界使い』たちが、来るべき『グランドクロス』に向けて、それぞれ行動していくお話。
『グランドクロス』というのは、この世界と他のいくつかの並行世界が交わる現象のことで、その際、並行世界同士の間で、覇権をかけた“戦争”が起きるらしいのですが。
そもそも『世界使い』たちのなかにも、遙か昔に『グランドクロス』でやってきた、異世界の種族の血を継いだ者たちがいて、『グランドクロス』に対する姿勢は様々です。
すでに『グランドクロス』に向けた抗争も始まっているなかで、主人公は『世界使い』としての能力を持ちながら、そうした現状には背を向けて生きているのですが。
それは、“正義の味方”の役割を果たして死んだ、同じく『世界使い』の両親や、自らも“正義の味方”として振る舞おうとして経験した、深い絶望があるからでした。
さて、ところでいったい、正義って何でしょうか? 法の正義、社会正義。正義の戦争、正義の味方。勝てば正義、かわいいは正義……。
それだけいろいろな正義があるにも関わらず、正義という言葉には、どこか有無を言わせない、独善的な響きもあって、なかなか取り扱いが厄介です。
ひょんなことから、『魔王』と名乗る不可思議な少女と出会い、一時的な協力関係を結んだ主人公でしたが、それでも依然、彼の正義は、心迷って定まりません。

セルツ・ファム・イグリーズ:「あなたの『世界』は、ルールを司る能力です。たとえ魔王である彼女が並行世界の力で暴走しても、あなたなら止められるはずです。彼女を助けるのは、きっと、あなたの運命なのだと思います」

そうして訪れた絶体絶命のピンチに、主人公とヒロインの間で交わされた、二人だけの“ルール”とは――。
あとがきによれば、本作は、『すっごい王道の現代学園ファンタジー』とのことですが。独特の、なにやら深そうな設定に、最初若干、戸惑いましたけれども。
トレーディング・カード・ゲーム風の属性バトルに、学園ものの要素もプラスして。何が正しい行いなのか?――正義とルールをめぐる物語、といった印象でした。
さて今後、それが果たしてどうなるのか。まだまだ明かされていない謎も多く、次巻も楽しみです。