『探偵失格』

ライトノベル・レーベルのスマッシュ文庫が、レーベル内レーベル「妹組」を立ち上げて、先週、3月17日に、「妹モノ」4作品を同時リリースし、話題となっていますが。
それに対して、こちらの『探偵失格』は、言わば、「お姉ちゃん」モノ作品といった感じ。去年、2011年12月発行。
作者の中維(ちゅうい)先生は、これがデビュー作となる新人さんのようで。
あとがきによれば、「本作は第十七回電撃大賞にて四次落選した作品を改稿修正したものです。」とのこと。
ちなみにこの作品のタイトルは、サブタイトルまで含めるとけっこう長くて、正式には、『探偵失格 愛ト謂ウ病悪ノ罹患、故ニ我々ハ人ヲ殺ス』です。
来月、4月10日には、早くもシリーズ第2巻が発売予定ということで、4月に入ると新年度でまたバタバタしますし、今のうちに第1巻の感想を。


(残りの24行、ネタバレあり)

黒塚音子:「呪法庁亡霊欠番の目的はね、国益の障害となるバケモノを処分すること。法の判決を省き、罰を与えず、一方的に抹消すること」

黒塚音子:「だから、ボクはどこにもいない。呪法庁としても、人としても、存在しない形而上の亡霊なのさ。人を脅かす百鬼外法を殺すためだけに製造された肉人形。無人兵器のひとつの型」

物語の舞台は、現代。ただし、第二次世界大戦後も、戦前の国家体制や社会制度などが、ある程度そのまま残った、架空の現代日本が舞台、のようです。
そして主人公は、(たぶん)何の特殊能力も持っていない、至って普通の高校生。ただし、過去のトラウマが原因で、重度のお姉ちゃんフェチではありますが(笑)。
そんなわけで、年上で先輩なヒロインに偶然出会った主人公は、不穏な噂もある彼女と共に過ごすうちに、ある館で起きる連続殺人事件に巻き込まれて……、といったお話。
この作品、まず印象的だったのは、文章です。(一部を除いて)基本的に全編、主人公の一人称視点なんですが、これが実況中継的と言うか、講談調と言うか、やや独特で。
くはぁ……そんなこと言われたら、善行の心配なんて遙かマゼラン星雲の彼方です。先輩の愛らしい笑顔を向けられたら僕だって男の子、二秒で即決いたしますとも!
くっ、色仕掛けはネコ先輩の十八番だけど、こっちだってそう容易く青少年の夢を玩ばれて堪るか! だいいち、命あっての物種です!
こんな風に、地の文も、主人公の語りになっていて、しかも少し昔風な、時代がかった言い回しが多用されてて、なんだかとってもユーモラス。
ただ、それで若干、誘導的と言うか、強引に感じる場面もあるんですが、上記のような舞台設定にもよくマッチしてますし、個性的でなかなか良かったです。
さて、そうした文章で語られるストーリーは、“館もの”ミステリーでは定番の、人里離れたクローズドサークルで起きる、密室殺人・バラバラ殺人事件がメイン。
ただし、「祟り神」だとか「魔女」だとか、「不死姫」だとか「フランケンシュタインの屍肉人形」だとか、やたらとオカルトっぽい単語も飛び交いますけれど。
あとがきには、「本作はタイトルに『探偵』とついておりますが、本格推理ものではありません」「『なんちゃって推理』ものでございます」とありますが。
実は、密室トリックや、人体構造に関するトリック、さらにはクローン技術といった意外なSF要素なども駆使した、割と本格的な推理ものになっています。
そうして謎解きが進むにつれて、平安時代の内乱・保元の乱(1156年)にまでさかのぼる因縁が明らかになっていきますが。
一方その過程で、主人公は、先輩に纏わる忌まわしい由来や、今まで知らなかった先輩の秘密・正体を突きつけられることになります。

黒塚音子:「キミにとって、黒塚音子という存在って何さ?」

黒塚音子:「ボクとキミとの接点は、キミがボクをお姉ちゃんだと思い込んでいることだけ。たったそれだけの偽られた関係。そこに真実なんてひとつもない」

幼い頃、お姉ちゃんを守れなかった主人公は、果たして無事に謎を解き明かし、いま目の前にいる大切な人を救うことができるのか――。
ミステリーに、ラブあり、コメディーあり。さらにSF要素あり、退魔バトルもあり。まさにアイデアてんこ盛り状態の、デビュー作にふさわしい、才気あふれる作品でした。
今回一応、主人公の方は、割ときれいに決着がついた感じになってますが。ヒロインの方にはまだまだ、知られざる一面があるようで。
事件解決への流れと言うか、フォーマットみたいなのもよく出来てて、マスコット的な不思議生物とか、他のサブキャラクターも魅力的。
だからずいぶん、シリーズ化しやすそうな作品だなと思っていたんですが。第2巻の内容紹介を見てみると、読み方によっては、え、もしかして完結なの?みたいな。
次巻・『探偵失格 2 真神原伏ノ殉教殺人』と、そしてこのシリーズ自体の今後がすごく、気になります。