『月見月理解の探偵殺人 3』『同 4』『同 5』

今年、2011年6月発売の第5巻で完結した、明月千里(あかつき・せんり)先生の、GA文庫大賞・奨励賞受賞作シリーズ。
第1巻、第2巻の感想は、すでに以前書いてますので。今回は、残りの3冊と、シリーズ全体について。
「月見月」というのは、辞書的には、陰暦8月の異称、なのだそうですが。中秋の名月とか、お月見の季節だからでしょうか。
考えてみれば、月の模様というのも不思議なもので、見えてる絵面は世界中で同じなのに、国によって・地域によって、見立てるものはずいぶんと違うみたいで。
ウサギであったり、カニであったり、ライオンであったり、女性の横顔であったり。
もちろんそんな見立てに、何が正しくて何が間違いとかいった“真相”などはなく。その文化圏では「何となく」「みんなが言ってるから」そう見てしまうというだけで。
そんなことも、この作品の内容に、何気に関係ありそうな気もしつつ、2011年、卯年、今年最後の感想です。


(残りの20行、ネタバレあり)

都築初:「僕は、本当のことなんて何も分からないよ確かに」

都築初:「君とプレイした、あの『探偵殺人ゲーム』でも、調べるカードを持たない者は、何も分からない。だから、最後の最後には、推理じゃなくて、何かを信じるしかない」

都築初:「僕にとっては、信じたものが真実なんだよ。君や水無月さんが否定しても、それがほんとかなんて、永久に分からない、でも――」

ネット上の多人数参加型推理ゲーム・『探偵殺人ゲーム』をきっかけに知り合った、主人公とヒロインが、文字通り、命がけのゲームを戦っていくお話。
第1巻、第2巻、そして変則的ながら第3巻も、いずれもその『探偵殺人ゲーム』というのが、ストーリーの要となっているのですが。
この作品での創作・架空のものらしい『探偵殺人ゲーム』はもちろん、そのモチーフになった『汝は人狼なりや?』(通称『人狼』)も、自分はプレイしたことがなくて。
どうもいまいち、ゲームの雰囲気が(分かってたつもりで)分かってなかったようなのですが。
第4巻、第5巻では、主人公たちが、がっちり・じっくり、実際に『探偵殺人ゲーム』をプレイしていて、ようやくどんな感じなのか飲み込めました。
確実な証拠や証明手段がない中で、嘘や誇張も織り交ぜながら、自分以外の犯人像を作り上げ、他者を出し抜き、最後まで生き残る、というそのゲーム。
ヒロインは、言ってみれば、究極の読心術を身につけているのですが。そんな彼女が唯一、『探偵殺人ゲーム』で心を読めなかったのが、主人公。
実は二人は、それぞれ過去の事情から、嘘の自分を演じ続けて、挙げ句の果てに、自分自身でも本当の自分が分からなくなったという、共通点があって。
そんな二人がともに、『探偵殺人ゲーム』を戦っていくうちに――。

月見月理解:「《無数に扉のある高座》が使えなくなって、俺様は何も分からなくなった。でも、そのせいでずっと分からなかったことが、今になって分かるようになったんだ」

月見月理解:「君は確か、信じたことが真実になる、と言っていたな。じゃあ、君の意識の残っているうちに、俺様の見解を言ってやろう」

ヒロインのサディスティックなボケと、主人公のマゾヒスティックな(?)ツッコミからなる掛け合いは、どれもすごく可笑しいですし。
サブヒロイン・星霧交喙をはじめとする、他のキャラクターたちの人物造形も魅力的。そしてまた、ストーリーやトリックも、毎回工夫がこらされていて。
第1巻のあとがきに、「真実を知ることができない故に考え、一応の答えを出し、それを押し通すために戦う」とあるのですが。
まさにそういった意味で、この作品のすべてが見事に、『探偵殺人ゲーム』に繋がっているように思います。面白かったです。
なお、明月千里先生のホームページでは、本作の、合計90ページ以上にも及ぶアフターストーリーが、(期限は不明ながら)公開中です。そちらの方も、ぜひどうぞ。
年明け、2012年、1月15日発売予定の新作・『眠らない魔王とクロノのセカイ』も期待しています。