『NOVA 5』

SFを中心に書き下ろしの新作短編を集めるオリジナル・アンソロジー《NOVA》シリーズの第5巻。今年の8月発行。
ちなみに今週、11月8日には、シリーズ最新巻『NOVA 6』が発売されています。
『NOVA 6』は、ベテラン勢+新人特集とのことで、宮部みゆき先生、樺山三英先生、松崎有理先生ほかの、全10編の作品が収録されているようです。
それでは話を戻して、以下、『NOVA 5』の感想です。


(残りの25行、ネタバレあり)

  • 上田早夕里先生・『ナイト・ブルーの記録』

神経接続型海洋無人探査機のオペレータが体験した、不思議な感覚・意識の変容を描いた作品。
上田先生の海洋SFと言うと、第1短編集『魚舟・獣舟』所収の表題作『魚舟・獣舟』や『ブルーグラス』、そして今年の日本SF大賞候補作『華竜の宮』などがありますが。
どちらかというと、今年の星雲賞・日本短編部門(小説)参考候補作だった、『マグネフィオ』に近い印象を受けました。
「あの感覚は、脳全体を土壌と考えたとき、その上に咲いた一輪の花のようなものなんだ。」という、脳の認識・意識のイメージをはじめ、テーマ的な部分で。
これは他の作品とも共通するように思いますが、SF的なアイデアをストイックに積み重ねていって、人間の心の機微を描くところが、特徴的な気がします。

人類が最初に移住に成功した太陽系外の惑星を舞台に、みんな何かしら事情を抱えた登場人物たちが繰り広げる、消費者金融・借金取り立てのお話。
舞台が未来で宇宙なだけでなく、人間そっくりで公民権もあるアンドロイドや、量子金融工学に基づいた「量子デリバティブ」なる金融商品が出てきたりするのが、SF的。

「そこで、こういう手法が考え出された。いいか、あくまで物の喩えと考えてくれ。米が豊作である宇宙と、米が不作である宇宙の両方に投資する。こうすれば、精度の高いリスクヘッジが可能になる。これが、多宇宙ポートフォリオという分野の基本的な考えかただ」

「待ってください」ぼくは思わず遮った。「隣りの宇宙から米は届きません」

基本的に、掛け合いのコミカルなバディものといった感じですが、それぞれの抱える事情の掘り下げ次第では、十分、シリーズ化とかも可能な気がします。

深夜、6秒間、時間があったとして、いったい何が出来るでしょうか。……せいぜい、ブラウザを立ち上げて、何度かクリックするくらい? ポチッ、ポチッと――。
この物語の主人公は、「僕」と「私」。
なぜか、世間と隔絶された個室で、つい最近紹介されたばかりの人物から、一般常識を疑われているような「ご存知ですか圧力」を受け続ける「私」も可笑しいのですが。
あるちょっとした特殊な能力を持つ「僕」の思いがけない体験も、何と言うか、アクロバティックな展開で面白いです。
「僕」はその能力を見込まれて、世界中を救うことになるという、とある仕事を依頼されるのですが。もちろん、依頼を受けたら、即OK、というわけにはいきません。

飛脚が走っている横で、「こちらのほうが効率的ですよ」と宅配便のトラックが追い抜けば、飛脚は落胆するだろう。今までの苦労や費用は無駄になるだろうし、つらい気持ちになるかもしれない。
君が仕事を引き受ければ、そういうことは起きる。
そういった説明だった。

物語のラスト、千葉県市川市にある物流倉庫の前で、通販会社の社員が、奇妙な人影を目撃します。
緑色のコスチュームに身を包み、大きなベルトを締めた、そのライダーの名前はきっと――。
ピンポーン。……ああ、もう注文の品が届いたようです(笑)。題名もやっぱりそういう意味? まさに、超絶技巧の時間SFでした。


そのほかの作品も面白かったです。