『空の境界 未来福音』

空の境界』『Fate/stay night』などで知られる、奈須きのこ先生、武内崇先生の作品。
もともとは、2008年の夏コミで頒布された同人作品で、『空の境界』本編のサイドストーリーおよび後日談を描いたものですが。
それが来週、11月10日に、一般書籍として発売されるということで、もとの同人版の、小説部分(「未来福音 Möbius ring」と「未来福音・序 Möbius link」)の感想を。
ちなみに同日、11月10日には、天空すふぃあ先生による漫画版『空の境界』第1巻も発売され、限定ストラップの当たる、プレゼントキャンペーンも実施されるみたいです。


(残りの24行、ネタバレあり)

……そう。正解が見えている以上、間違った行動などできる筈がない。彼は、仮に――たとえ自分の行動が何一つ快楽のないものだとしても、“成功する未来”のビジョンに逆らえない。
彼は未来を視るコトで、自らの過去を限定させてしまっている。
現在と未来の間を往復する、未来を実現させる為だけの奴隷。それが倉密メルカの未来視である。

本作『空の境界 未来福音』には、『空の境界』本編の主役コンビ、両儀式黒桐幹也も登場しますが。中心となるのは、「未来視」の能力を持つ、別の2人の人物です。
ここで言う「未来視」とは、文字通り、映像として未来を視る、ということですが。これは、何の情報もなしで相手の未来を当てる、「予言」などとは異なります。
詳しい理屈付けは本文中にありますが、ごくごく大雑把に言うと、膨大な情報から、無意識のうちに必然の結果を導き出す、「高度な情報処理にすぎない」とのこと。
そして、「未来視」にも色々と種類があって、2人の「未来視」能力者は、「測定」の能力者、「予測」の能力者として、それぞれ分類されますが。
問題なのは、一方が、両儀式を付け狙う連続爆弾魔で、もう一方が、偶然、黒桐幹也の目の前でトラブルに遭遇する女の子だということ(笑)。
当然、両儀式黒桐幹也の両人は、それぞれがそれぞれのやり方で、「未来視」の2人に関わっていきます。
本来、世界というのは、成立していることがらの“総体”で――。「すべてが連結した“統合”の象として捉えるのが正しい」のだとしても。
人間の情報処理能力には限界がありますし、無駄を省く・労力は減らす、という、効率の面からも、いろいろと物事を切り分けていく必要があるわけで。
そうしていつの間にか張り巡らされた「空っぽの境界」を、今回も、式のナイフが切り裂いて――。

倉密メルカ:「なんで、あの未来が変わったんだ!?」
両儀式:「変わったんじゃない。もとから未来ってのは無いんだ。無いものに手は出せない」

両儀式:「未来ってのはあやふやだから無敵なんだ。けどさ、それにカタチがあったら、壊れちまうのは当然だろう」

登場人物たちが、現在と切り結んで作る未来から、表が裏に、裏が表につながるメビウスの輪を眺めると。
本編で退場したあのキャラクターも、もう少しだけ救われるような気がしてきます。
この『空の境界 未来福音』自体は、そんなに長いお話ではなくて、わりとさくっと読めてしまう感じなのですが。
空の境界』本編とセットで考えてみると、あるいは上記のような解釈も出来るんじゃないか、と。面白かったです。
さて、そんな奈須きのこ先生、武内崇先生が所属する、ゲームメーカー・TYPE-MOON関連では。
現在、TVアニメ『Fate/Zero』が好評放送中ですし、TYPE-MOONの10周年記念アニメ『カーニバル・ファンタズム』の第2巻も、先週、10月28日に発売済み。
さらに、今年4月にTYPE-MOON公式サイトで期間限定公開され、反響を呼んだ、星空めてお先生の『四月の魔女の部屋』が、今月、11月15日に発売予定。
ほかにも、『Fate』シリーズのゲームやコミックなど、節目の年にふさわしく、様々な作品・企画が目白押しですが。
あとはやはり、発売の延び延びになっている、ビジュアルノベル魔法使いの夜』が、本当に「2011年内」に出てくれれば!(笑) 期待してます。