『原色の想像力』

第1回(2010年)創元SF短編賞の最終候補作から、佳作をはじめとする9編と、受賞作家の受賞後第1作『ぼくの手のなかでしずかに』を収録したアンソロジー。2010年発行。
なお、受賞作である松崎有理先生の『あがり』は、先に刊行された『年刊日本SF傑作選 量子回廊』の方に収録されていて、この『原色の想像力』には載っていません。
『あがり』はそのほか、短編1編のみの電子書籍としても発売中で、また、先々月、9月発行の単行本『あがり』にも、上記の受賞後第1作などとともに収録されています。


(残りの27行、ネタバレあり)

  • 永山驢馬先生・『時計じかけの天使』

現在のあたしの安寧が、日菜子の犠牲の上に成り立っていることを、あたしはわかりすぎるほどわかっていた。だが、あたしの足は動かなかった。
(永瀬さん、ごめん)
心の中で彼女に詫びた。弱い人間だ、とあたしはあたしを嗤った。

学校でのいじめ対策のため、“いじめられロボット”の導入が決定した、近未来の日本を舞台とするお話。
出会いは幸福なものではありませんでしたが、たしかに2人の間には、友情と呼べるものが芽生えたんじゃないかと。
ちなみにこの作品は、来週、11月26日放送の、フジテレビ系『世にも奇妙な物語2011年 秋の特別編』内で、『いじめられっこ』として映像化されるそうです。

「好きという気持ちのネットワークだけが、世界を安定的に支えることができる」ってママは言っていたけど、これはママの一番の名言だと思う。ママはみんなの好きという気持ちの土台になることに成功したのね。

遠い宇宙へと旅立った宇宙船から届く、壮大なラブストーリー。
ユビキタス・ネットワークや広波長域可視光通信超分子マシンに、大脳生理学に、人工知能に、天文学などなど、SF要素は盛り沢山ですが、語り口はあくまでやさしく。
最終選考会ではまんべんなく好意的な評価を受けながら、それで逆に選考委員特別賞ももらえず無冠に終わって、ちょっと気の毒でしたが。
第2回(2011年)創元SF短編賞でも、『プラナリアン』が最終候補作に残っていたみたいで、すごいです。

一歩。
また一歩。
遠く、麓で明滅する街の灯火は由宇の内奥の神経の発火だ。たえまなく吹きつける吹雪、意味と統語のスープのなかで。抽象の未踏峰の氷壁を一ミリ、また一ミリと登りながら、由宇は抽象のザイルをたぐる。――その向こうに相田はいたのか。

脳神経科学や言語学的なアイデアをもとに、数奇な運命をたどる女性棋士と、その保護者的立場の棋士を描いた作品。第1回創元SF短編賞 山田正紀賞受賞。
何か独特な“ものの見方”で世界を把握していくお話って、やっぱり面白いな、と。
端から見れば不幸・不遇とも言える2人を、第三者ながら寄り添う視点で描写しているのも良かったと思います。
ちなみに、この作品と同じ語り手によるゲームSF連作として、ほかに、『人間の王』『清められた卓』があり、『清められた卓』は、東京創元社の公式サイトで読めます。

  • 坂永雄一先生・『さえずりの宇宙』

全人類の連想する意識を通じて、可能性宇宙を相互作用させる。培地の上で地球は増殖し、相互作用し、選別されつづける。予め定められた約束の地すらなく、たどり着いた山頂に虹がかかって歴史となる。

あらゆる物質とエネルギーを計測し、永遠を具現化させる、“図書館”のお話。第1回創元SF短編賞 大森望賞受賞。
鞠とスザンナ、2人の登場人物の“対話”によって自生してくる、意識・生命・世界の物語、なのかな?
はっとするようなイメージ喚起力の強いシーンがいくつもあって、そういうところも良かったです。


そのほかの作品も力作揃いで面白かったですし、巻末に収録されている最終選考座談会の内容も興味深いものでした。