『スノウピー、見つめる』

正式タイトルは「スノウピー 1 スノウピー、見つめる」のようなんですが。それだと少し長いですし、これまでもサブタイトル等は省かせてもらってきましたので。
「スノウピー 1」とどちらにするか迷ったんですけど、表紙などでも目立つ扱いになっている、「スノウピー、見つめる」の表記でやらせていただきます。記事のタイトル。
第1回ネクストファンタジア大賞銀賞受賞作。
創設されたばかりの賞みたいですが、面白そうだったので読んでみました。


(残りの14行、ネタバレあり)

しばらくの間それはからまりあった毛糸玉みたいにぐにゃぐにゃと支離滅裂な変形を繰り返していたけれど、やがてあるべきものがあるべき形におさまるように、ふっと明確なかたちをとった。

ランダムドットステレオグラムというものがあります。
テレビ放送終了後の砂嵐、あるいは大きめのQRコードみたいな、点々模様の画像で。左右の目の焦点を合わせないようにして見つめると、立体像が浮かび上がる、アレです。
あれを特別な装置なしに裸眼で見るのは、割と個人差、向き不向きがあるらしくて。自分は立体が見えてくるまで、毎回けっこう苦労するんですが。
「見えます」って書いてあるんだから、絶対何か見えるはずと、じいっとぼんやりにらんでいると、だんだん像が定まってきたりなんかします。
さて、本作品のストーリーですが。ある日突然、異世界へ迷い込んでしまった主人公が、ひょんなことから、そちらの世界の女の子(?)を、こちらの世界へ連れて帰って。
帰るに帰れなくなった女の子は、ふたたび世界が重なりあう日まで、主人公の家に居候することになり……、というようなお話です。
まず印象的だったのは文章です。本文(地の文)はほぼ、主人公の一人称視点からの描写なんですが。
「ポッキーチョコレートのようにまっすぐ前に」とか、「サラダに使うレタスでもちぎるみたいに淡々と」とか。ちょっとユニークな修飾語が多用されていて。
主人公の“空気の読めなさ”かげんと相まって、ある種の相乗効果を生んでいると思います。
そして、そんな主人公の周囲では、当然、誤解やすれ違いが頻発するわけですが。
見かけはどうあれ、それぞれみんな一生懸命生きている、みたいなことも描かれていて、すごく共感できました。
異世界から来た不思議な存在と過ごす、そんな日々。いつまでも続くかに思えたそうした日常を、唐突に襲った悲劇の中で、主人公のとった行動とは――。
信じることの意味とか、あるいはもっと認識論的なことをテーマにした作品なのかな、と思いました。イラストやデザインも含め、とてもかわいらしくて面白い作品でした。