『ZOO』

2005年に映画化もされている、乙一(おついち)先生の傑作短編集。
乙一先生と言えば、待望の新刊『なみだめネズミ イグナートのぼうけん』が、先週、8月6日に発売されています。
一応、児童書という体裁ですが、もともと寓話的な作品も多い印象の乙一先生なので。こういう作品形態は相性良さそうな気がします。
では、以下、2006年発行の文庫版『ZOO』(『ZOO 1』と『ZOO 2』の2分冊)の感想です。


(残りの23行、ネタバレあり)

ハイジャック犯:「死んだ気持ちになって新しい人生をはじめるだなんて……、僕にはむずかしすぎます……。」

ウィキペディアの乙一先生の項目によれば、先生の作品(とくに初期の)には、残酷さを基調とするものと、切なさを基調とするものの、2種類が存在するらしく。
自分はそのうち、切ない系の作品(『失踪HOLIDAY』とか)は読んだことあったんですが。もう一方の、凄惨さのある作品というのは、これがたぶん、はじめてです。
「死んだ気持ち」でとどまらず、実際、人が死んじゃうパターンも多いですけれど。そういった絶望的状況におかれてはじめて見えてくるものも、たしかにあると思います。
あと、そうした極限状態にありながら(もしくは、そうした極限状態だからこそ)、意外に腹の据わった、不思議と頭の冴えている登場人物が多いのも印象的です。

  • 「SEVEN ROOMS」

謎の犯人に拉致監禁された姉と弟のお話。
ストーリーのみならず、生理的にも結構ショッキングで。カタルシスもあるし、寓話的な面もあるんですが、よく映画化されたなぁとも思いました。

  • 「SO-far そ・ふぁー」

両親のことがどちらも好きな男の子のお話。
人間の(脳の)“つじつま”を合わせる能力というのはすごいので。もしかしたら、あるいはこんなことも実際に、なんて思いました。

  • 「ZOO」

恋人を失った男の家の郵便受けに、毎朝、死体写真が届けられていて……、というお話。
演技し続ける男というのが面白いし、表現論的な話も興味深いです。
これもわりとグロテスクな描写がありますが。最後のシーンがすごく映画的と言うか、振り返る男の姿が・表情が、ありありと目に浮かびました。

  • 「血液を探せ!」

資産家の男がある朝、目を覚ますと血まみれになっていて……、というお話。
いちいち可笑しくて大笑いしつつ、読んでるこちらの血の気も引いてくる感じ(笑)。早く誰か、血を止めてあげて!

  • 「神の言葉」

人間に限らず、相手が生き物ならば、念を込めて語りかけるだけで、思い通りに出来る少年のお話。
コミュニケーションの断絶が生んだ悲劇でもあり、乙一先生が“哲学的ゾンビ”を題材にすればこうなる、的な部分もあるような気がします。
果たしてこれが(物語の中の)現実なのか、それとも少年の妄想(あるいは世界認識)の反映なのか、という切り口でも、いろいろ解釈できそうです。


その他の作品も含めて、先生の話運びの上手さ、話の筋立ての面白さを、存分に味わえる作品集でした。