『アイの物語』

『時の果てのフェブラリー』などで知られる山本弘(やまもと・ひろし)先生の、2006年刊行の作品。(実際に自分が今回読んだのは、2009年発行の文庫版ですが。)
本の雑誌』2006年度ベストテン・第3位。『SFが読みたい!2007年度版』・第2位。
山本先生と言えば、先生の小説『MM9』が、樋口真嗣総監督の元で実写ドラマ化され、MBS他にて現在好評放送中。
原作本自体も、6月に文庫化、さらにはiPad版、iPhone版などの電子書籍でも発売と、多方面に展開中です。
では、以下、『アイの物語』の感想です。


(残りの11行、ネタバレあり)

アイビス:「君は語り部だから。物語を愛する人だから、理解しているはず。物語の価値が事実かどうかなんてことに左右されないということを。」

あらすじとしては、人類が衰退し、マシンが君臨する未来。捕らえられた主人公が、美しい女性型アンドロイドから、7つの物語を読み聞かせられる、というお話です。
この“劇中劇”ならぬ“物語中物語”的な構造も面白いんですが。この7つの物語の構成も面白くて。
過去、それぞれ別々の時期に、別々の媒体で発表された5つの短編と、書き下ろしの2つの中編が使われていて。
それらがまるで最初から本作品のために作られたかのように、有機的に組み合わせられています。
その7本の中短編のうち、『宇宙をぼくの手の上に』『詩音が来た日』『アイの物語』(この『アイの物語』作中の、同名の中編)で、特にそう思ったんですが。
日常的なこととか、世間的なことに、すごくリアリティがあるな、と。
そしてこれは、書評家・豊﨑由美先生の巻末解説で触れられている、同じく山本先生の『詩羽のいる街』とも通じるような気がするんですが。
社会との関わりを常に意識して、書き上げられた作品であるように思いました。
そうした7つの物語の果てに、主人公が知る真実とは――。
ヒトとロボットの関係と、そして物語の力を描いた、まさに“地に足の着いた”という表現がぴったりな感じの作品でした。