『劇場版 空の境界 未来福音』

Fate/stay night』『DDD』などでも知られる、奈須きのこ(なす・きのこ)先生の小説が原作の、劇場アニメーション・『空の境界』の最新作。先々週、9月28日公開。
(原作:奈須きのこ、監督:須藤友徳、キャラクター原案:武内崇、脚本:桧山彬(ufotable)、キャラクターデザイン・作画監督:須藤友徳・菊池隼也、アニメーション制作:ufotable。)
『劇場版 空の境界 未来福音 extra chorus』も同時上映の本作、さっそく見てきましたので感想です。


(残りの18行、ネタバレあり)

瀬尾静音:ふと疑問に思ったのだ。どうして、終わりはいつも悲しいものなんだろうと。

瀬尾静音:どれだけ日々が幸福にできたとしても、終わりになれば台無しになる。どうあっても物事は終わっていく。その唐突な終末を謝罪できないのなら、せめて万人にとって幸福な終わりであるべきなのに。

上記引用は、来場者特典の、奈須きのこ先生書き下ろし小説・『終末録音/the Garden of oblivion』から。
さて、小説『空の境界』の番外編・『空の境界 未来福音』を原作とするこの映画は、あらすじとしては、その原作小説にかなり忠実な作りになっています。
星海社文庫版『空の境界 未来福音』が出版された際(2011年11月)、すでに物語についての感想は書いているのですが、アニメ化と言うことであらためて簡単に。
空の境界』本編の主役コンビ、両儀式黒桐幹也が、それぞれ別々に「未来視」――「未来を予見する」能力者と出会い、彼らが抱える問題を解決・解消してしまうお話。
自分は原作既読とは言え、細部はわりと忘れてて、今回の映画はけっこう、新鮮な気持ちで楽しめました。映像ならではの魅力・迫力も、もちろんありましたし。
あと、「未来視」能力者の一人が、声が石田彰さんで、最初、意外に思えたんですが。観ているうちに、そう言えばそういう、ギャップのあるキャラクターだったなと。
ちなみに本作には、実はツンデレな殺人鬼は出てきますが、(『ダンガンロンパ』のような)実は家庭的な殺人鬼は登場しませんのであしからず(笑)。
ストーリーの方は、そうした『空の境界』本編の現在(1998年)では終わらずに、その先の未来(2010年)において、「未来視」能力者により思わぬ過去が明らかに――。

瀬尾静音:未来を視るわたしは、結局、人生には悲しみしかないと知っている。

瀬尾静音:けど、そんな人生を加工して、無理矢理にでも笑い話にして、人生は楽しいねって騙り続けるのが、映画というものの本質なんじゃないだろうか。

上記引用も、来場者特典の、奈須きのこ先生書き下ろし小説・『終末録音/the Garden of oblivion』から。
小説『空の境界』の特徴の一つに、複雑な時系列というのがあると思います。複数の登場人物の視点から描かれる物語は、断片的で、必ずしも順番通りにはなっていない。
それには、サスペンスやミステリーとしての効果だけではなく、バラバラに切り離されたパズルのピースが、次第に一つの絵を浮かび上がらせるような効果もあって。
そうして見えてくる絵――テーマ、意味、構造など、それをどう呼ぶかはともかく――は、終わりゆく時間軸を越えて、長く残って・続いていくんじゃないだろうかと。
ともあれ、『魔法使いの夜』のように、『空の境界』の登場人物が顔を出す作品は今後もあるでしょうが、『空の境界』としては、どうやら本当に、これが最後のピース。
『劇場版 空の境界 未来福音』――“それは、あなたが呼び覚ました、幸福な未来の物語。” 来場者特典も数に限りがあるようですし、まだの方はどうぞお早めに。