『AKIRA』

『MEMORIES』『スチームボーイ』などでも知られる、大友克洋(おおとも・かつひろ)監督が、自作の同名コミックを、自ら映画化した作品。1988年公開。
(原作・監督:大友克洋、脚本:大友克洋橋本以蔵、キャラクターデザイン:大友克洋、作画監督:なかむらたかし、作画監督補:森本晃司、アニメーション制作:東京ムービー新社。)
先週、国際オリンピック委員会総会にて、2020年のオリンピック・パラリンピック競技大会が、日本の東京で開催されることに決まりました。
それを受けて、ネットでは、五輪開催前後のコミケ会場問題などとともに、この『AKIRA』が作中で、2020年の東京オリンピックを予言していたとして話題でした(笑)。
というわけで、せっかくなのでこの機会に、映画『AKIRA』の感想を。


(残りの21行、ネタバレあり)

ケイ:「人間ってさあ、一生の間にいろんなことするでしょ? 何かを発見したり、作ったり」「家とか、オートバイとか、橋や、街や、ロケット……」
ケイ:「そんな知識とかエネルギーって、どこから来るのかしら?」

ケイ:「サルみたいなものだったわけでしょ? 人間って」「その前は、爬虫類や魚」「そのもっと前は、プランクトンとかアメーバとか」
ケイ:「そんな生物の中にも、すごいエネルギーがあるってことでしょ?」

金田:「そりゃあ…………、遺伝子のせいだな!」

ケイ:「そのもっと前の、水や空気にも遺伝子はあるのかしら?」「宇宙の塵だってそうでしょ?」
ケイ:「もしあるとしたら、どんな記憶を秘めてるのかしら? ――宇宙の始まり、そのもっと前の」

1988年の“新型爆弾”による崩壊から31年後――めざましい復興を遂げ、翌年にオリンピック開催を控えた、2019年の東京が舞台。
暴走族同士の抗争の最中、奇妙な子供と出くわした少年たちが、国家の最高機密・「AKIRA」をめぐる争いに巻き込まれていくお話。
まず映像に関して言うと、最初から最後まで、よくここまで手描きで表現できるなあとあきれるくらい、あらゆる物事に独特のリアリティーがあってスゴいです。
街中を疾走するバイクや、てんでバラバラに動き回る群衆や、爆発に爆風に、倒壊する建造物や、もちろん動かない背景まで、描き込みの量もハンパないです。
そうした映像とともに、最高幹部会議やアーミーや反政府分子などが入り乱れて進むストーリーも、どこか懐かしいレトロ・フューチャーな雰囲気があってワクワクします。
さて、退屈な日常からそんな非日常の世界へと、主人公たちが足を踏み入れるきっかけとなった“奇妙な子供”――要するに軍の研究施設で暮らす超能力者についてですが。
自分はなんとなく、彼らは無理な能力開発のせいで、異常に早く老化が進んだ子供たち、という風に思っていたのですが。
バンダイビジュアルの『AKIRA』公式サイトによれば、どうやら彼らは1980年生まれとかで、むしろいつまでも子供心のままの/子供っぽいままの大人(老人)という感じ?
そんな彼らが、まるで「宇宙が誕生」したかのようなクライマックスで、「でも、いつかは私たちにも」「もう、始まっているからね」との言葉を残していくのですが――。
情報源はよく分からないものの、Wikipediaによると、タイトルの「AKIRA」は、大友監督自身がファンであり、影響を受けた、映画監督・黒澤明氏に由来するとのこと。
1964年、前回の東京五輪では、当初、その黒澤明監督が記録映画を撮るはずが、諸事情あって流れたそうです。(JOC公式サイトの市川崑監督インタビューにも記述あり。)
1988年、この映画『AKIRA』は、観た者の心に、まさに“新型爆弾”のような衝撃を与え、そしてその“遺伝子”は、今も数々の作品に受け継がれていると思います。
だから2020年、今度の東京五輪では、まさしくクール・ジャパンの代表格と言える、その大友克洋監督に、映画を制作してもらうというのはどうでしょうか。
そうすれば、オリンピック会場の地下深くに、「KATSUHIRO」冷凍保存施設を作らなくても済みますよ?(笑)