『アリストテレスの幻想偽典 1』

作品タイトルは、正式には、「アリストテレスの幻想偽典 1.禁忌の八番目」。「幻想偽典」は、「ビブリオダスト」と、フリガナが振ってあります。
これがデビュー作らしき、新人の、永菜葉一(ながな・よういち)先生の作品。昨年、2012年11月発行。
続編となるシリーズ第2巻・『アリストテレスの幻想偽典 2.時空支配の歯車』が、今週、3月19日にめでたく発売ということで、このシリーズ第1巻の感想を。


(残りの15行、ネタバレあり)

『悠久にも似た時を経て、ついにアカデメイアは開かれた。ゆえに我はここに万物の真偽を問う――答えよ、汝の目に映る世界は真であるか偽であるか?』

世界中に姉妹校を持つ名門学園(の日本校)を舞台に、原因不明の昏睡状態に陥った妹を助けるため、「幻想偽典」の力を手にした主人公が奔走する、みたいな感じのお話。
「幻想偽典」(あるいは略して、単に「偽典」)とは、「歴史に刻まれた大著に人々の想念を編み込んで創られた、偽りの書」と定義されるもので。
ファウスト』や『死に至る病』といった歴史に残る有名な本(原典)と、「偽典」の持ち主となる人間の精神性とが相互作用して現界する、不思議な本のことです。
その本があれば、原典の内容と、持ち主の願いと、さらにそれらをどれだけ理解し自分のものにしたかに応じた、固有の能力が使えるようになるのです。
「偽典」に関する事柄は、一般には秘匿されているのですが。その力と、究めれば最終的に持ち主の願いを叶えてくれるという特性から、事件や争いが絶えません。
妹が目覚めなくなったことをきっかけに、主人公もまたそうした事件に巻き込まれ、これまで知らなかった「幻想偽典」をめぐる事態に関わっていくことになります。

青柳雪乃:「――忘れないで。白い本はみんなの願いを集めて、本当の世界を呼び寄せるためのものだから」

世界そのものを変貌させる力を秘めた、特別な「幻想偽典」を引き当てた主人公。果たして彼は、自らが理想とする、大切な人を守れる人間になれるのか。
――学園の地下に眠る、すべての力の源。不思議な光を放つ、思い出の絵本。主人公と同様に特別な「偽典」を手にする、予見された七人の保持者たち。

天上寺紋芽:「……終焉を司ると言われた禁忌の八人目の到来、どうやら忙しくなりそうです」

……と、そんな感じで、なんだかワクワクしてくるような、学園ビブリオファンタジー。
事件やバトルの鍵となる「幻想偽典」の力が、原典の内容や持ち主の願いを反映しているため、流行りのビブリオミステリー的な謎解き要素もありますし。
主人公を助け、導いてくれる、優しい先輩との甘々なラブコメディーも楽しめます。
この先の展開もいろいろちゃんと用意されてるっぽいですし、期待して読んでいきたいと思います。