『新世界より』

(またしても1ヶ月ほど、消息を絶ってしまいました。すいません……。)
新年度も始まり、新番組もほぼ出揃った今頃ですが、先月、全25話にて大団円を迎えた、この作品について。
原作:貴志祐介、監督:石浜真史、助監督:ヤマトナオミチ、シリーズ構成:十川誠志、キャラクター原案:依り、メインキャラクターデザイン:久保田誓、制作:A-1 Pictures
日本SF大賞を受賞した、原作小説もあわせての感想です。


(残りの18行、ネタバレあり)

朝比奈覚:「……つまるところ、時間や空間、物質は、すべて、情報に還元される。呪力は、宇宙を形作っている情報を書き換える、究極の力だっていうことなんだ。」

朝比奈覚:「生物は人類に進化することで複雑な脳を発展させ、ついには、脳の作り出した幻影が、宇宙そのものを変貌させていく……」

上記は原作小説からの引用です。アニメの該当箇所ではなぜかカットされていましたが、もしかしたら、自分の見逃したどこか別の箇所でちゃんと補完されてるかも。
人類が「呪力」と呼ばれる超能力を手に入れた、遠い未来の日本を舞台に、一見、理想郷で暮らす少年少女たちが、世界の真実を知り、過酷な運命に巻き込まれていくお話。
「呪力」とは要するに、サイコキネシス(念動力)のことで、それ自体、驚くべき能力ですが。問題なのは、「呪力」が事実上、無限のエネルギーを秘めたものであること。
なぜならそうした状況は、社会の構成員全員が核ミサイルのボタンを所有しているのと同じことであり、たった一人の暴走によって、社会全体が崩壊に導かれうるからです。
そのため未来の人類には、同種間攻撃を抑制・停止させる機構が遺伝子レベルで組み込まれ、さらに子供たちは、教育課程で徹底的に管理・選別されているのですが。
それでも極稀に、「呪力」により破壊と殺戮の限りを尽くす者や、放射能のように周囲にある物すべてを汚染してしまう者が現れ、そのたびに悲劇が繰り返されています。
人間並みの智能を持ちながら「呪力」は持たず、人類に服従している「バケネズミ」など、不思議な生き物も多く棲息する、町の外でのキャンプの最中に。
主人公たちは思いがけなく、大人たちの教えてくれない、そうした人類の血塗られた歴史を知り、そんな社会体制の裏をかくような、重大な危機に直面することになります。
――幸せな幼年時代と、初恋の思い出。終生忘れないだろうキャンプの一夜と、命がけの大冒険。大切な人たちとの別れと、決死の作戦。そして明かされる衝撃の事実。
ストーリーは基本的に、アニメと原作小説で同じ展開を見せ、最後にともに、「想像力こそが、すべてを変える。」という標語で幕を下ろすのですが。
原作では最初から、大人になった主人公の回想として物語が進み、エピローグ的な部分での主人公の考えもあって、“力”とどう向き合うかの話、というのが自分の印象で。
でもアニメでは、あまり回想という感じではなくて、成長していく子供たちを時系列通りに描いていて、エピローグ部分もかなり省略して余韻のある終わり方で。
だから実は、テーマとしてはもっと幅広くて、自分自身でもなかなか思い通りにならない、心についての話なのかな、と思い直しました。
設定や状況に関する説明はわりと少な目で、ちょっと分かりづらいかもなんて思うところもありましたが、その分、映像として印象的なシーンが多くて。
歳相応に見た目も成長していくキャラクターとか、和風なんだけどユニークな未来衣装や建物など、デザイン方面も魅力的。
『新世界より』という物語について、じっくり考える良い機会にもなりましたし、なにより、懸命に行動する子供たちに感情移入させられて、不思議と心に残る作品でした。