『伏』

(大変ご無沙汰しております……。すいません。今週からブログ更新、再開します!)
直木賞作家・桜庭一樹先生の小説『伏 贋作・里見八犬伝』を原作とする映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』が、先週、10月20日より劇場公開されています。
(原作:桜庭一樹、監督:宮地昌幸、脚本:大河内一楼、ビジュアルイメージ:okama、人物設計:橋本誠一、アニメーション制作:トムス・エンタテインメント文藝春秋創立90周年記念作品。)
さっそく見てきましたので、原作小説とあわせて、その感想を。


(残りの14行、ネタバレあり)

里見義実:「名には力があるのだぞ。生まれつき定められた星の巡り――つまりは“運命”と、それに抗い、闘う、人の“意志”を結ぶ力が。」

兄を頼って江戸へ出てきた猟師の少女が、犬の血を引く〈伏〉と呼ばれる者たちを追うなかで、成長するお話……というのがとりあえず、小説と映画の共通のあらすじです。
小説の方はさらに、(本物の『里見八犬伝』に対して)『贋作・里見八犬伝』というお話と、〈伏〉の一人が語る「伏の森」というお話の、2つが作中に挟まれるのですが。
そうして、その昔、安房の国の城主・里見家の姫が、父の交わした約束のため、飼い犬と結ばれ、宿した子の子孫が〈伏〉の正体では、と明かされて。
〈伏〉たちが、姫と飼い犬が暮らしたという不思議な森――重力も道徳も常識も義務も時間もなにもない、自由なのか虚無なのか分からない場所を訪れたことが語られます。

信乃:里見の城主に首を落とされた怪盗玉梓が、その子孫を「犬となさん!」と呪ったときが、因果の輪の、因とすればな。俺たちが「――伏の森!」と吠えた夏の朝こそが、きっと果なのだぜ。

原作ではそのようにして、因果の輪が閉じた後の――物語などというものがすでに終わった後の世界で。
江戸の地下に埋まった獣の背骨のような地下道を抜け、その上にそびえ立つ江戸城天守閣での睨みあいを経て、現実へ――みたいな、手の込んだ二重構造になっています。
一方、映画の方はと言うと、そういう因果の因、過去へと遡るようなところは、かなり大胆に省略・再構成してあって。
光と影、秩序と獣などといった対立・葛藤も、最初からあらかじめ、個々のキャラクターの内面へと、具体的に落とし込んでいる感じ。
なかでも特に、映画版オリジナルとなる脇役の造形、それぞれが背負っているドラマが良かったのですが。
因果の果、未来へと向かうような少女の成長物語、あるいはラブストーリーという主軸がしっかりしてて、全体として非常に締まった、密度のある仕上がりになってました。
どこか和洋折衷な、カラフルで華やかな春の江戸を舞台にして、結構コミカルにドタバタと、でも時に幻想的に・時に情感たっぷりに展開される、人と〈伏〉との物語。
まさにアニメーション映画ならではのエンターテイメント性を追求した感じの、見た後に幸福感と言うか、満足度の高い作品でした。