『夕焼け灯台の秘密』

いよいよ今週末、と言うかもう明日、12月3日から、映画『けいおん!』公開スタートですが。アニメーション制作はもちろん、京都アニメーション
そんな京都アニメーションが刊行している、「KAエスマ文庫」のうちの一冊、『夕焼け灯台の秘密』が、今回の感想の作品です。
作者はシナリオライターの、志茂文彦(しも・ふみひこ)先生。京都アニメーション作品では、『CLANNAD』『涼宮ハルヒの消失』ほかの、脚本を担当されています。
もともとは京都アニメーションのウェブマガジン「京アニBON」に連載されていた作品で、加筆・修正のうえ、書き下ろし短編も加えて、今年6月に文庫本として発売。
ただ、この「KAエスマ文庫」というのは、やや特殊なルートで流通しているようで。一部の京アニグッズ取扱店のほか、ローソンのLoppiでの販売のみとなっています。
自分はたまたま別件で、KAエスマ文庫取扱書店へ行く機会があったので、そのついでに買って、読んでみました。


(残りの14行、ネタバレあり)

「私もお父さんのこと、好きだよ。いつもは口答えばかりしてるけど」
それもまた本音ではなかった――はずなのだが、口に出してみると、意外と嘘でもないらしいことが、自分自身でわかった。

親とけんかして家を飛び出した高校一年生の大平水穂は、おばさんが住む古い灯台を訪ねる。だが、そこに居たのは正体不明の子どもたち、朝絵、まひる、美夕の三人姉妹だった。
なぜか「自分たち以外の人間は滅亡してしまった」と信じる美夕のために、水穂は「幽霊のフリ」を引き受けるが、次第に自分が本当に幽霊のような気がしてきて……。
不思議な子どもたちと元気少女の触れあいを、コミカルに、そして情感豊かに描く志茂文彦オリジナル小説。(カバー裏表紙の内容紹介より)

あとがきによれば、このお話は、児童劇団のミュージカル用に考えたアイデアだったそうで。そのためもあるのか、児童文学並みのとっつきやすさで、スルスル読めました。
けいおん!』とはまた趣が異なりますが、4人の女の子たちのやりとりが、にぎやかで微笑ましいです。
主人公・大平水穂と、それぞれどこかしら彼女と似ている、夕焼け灯台の子どもたち。たそがれ時の暗い海でも、まぶしくあたたかな光が、彼女たちを照らします――。

姉はいっていた。夢と現実のあいだにいる時、こうして話ができるのだと。
それは美夕の『ちから』の影響だったのだろうか。

それらの世界の境界は、水穂が考えているよりも、本当はずっとあやふやで――いや、もしかしたら、ほとんど違いがないほどで……。

あとがきに、「ほんわかしたSFが大好き」とありますが。まさに文字通りの意味で、「ほんわかしたSF」としても読めますし。
特に書き下ろし短編の方で、より分かりやすいと言うか、あからさまな気がするんですが。
空想とか夢とかフィクションとか、美夕の『ちから』をある種のメタファーとして考えると、より楽しめるように思います。面白かったです。