『サクラコ・アトミカ』

『とある飛空士への追憶』『レヴィアタンの恋人』などで知られる、犬村小六(いぬむら・ころく)先生の、先月、4月14日発売の作品。
ざっと読んでみて、本文は、星海社ウェブサイト『最前線』で連載されたものから変更ない感じですが。
片山若子先生のイラストは大増量、10点以上がフルカラーで収録されています。
さて、犬村先生と言えば、2008年に発売され、大いに話題となった『とある飛空士への追憶』が、今度、アニメ映画化され、今秋公開予定となっています。
アニメーション制作は『時をかける少女』『サマーウォーズ』などのマッドハウスで、先月末には公式サイトもリニューアルされ、特報動画も配信中です。
それでは話を戻して、以下、『サクラコ・アトミカ』の感想です。


(残りの11行、ネタバレあり)

――サクラコの美しさが世界を滅ぼす。

フィクションの中では、作者の語る通りに、物事が進んでいきます。たとえそれが、どんなにあり得ない、理不尽な事柄だったとしても。
ストーリーとしては、わずかなインスピレーションがありさえすれば、不可能を可能にする、願えば叶う存在の、「丁都」知事、ディドル・オルガによって。
囚われの身となった「阿岐ヶ原」の姫君、サクラコが、牢番の少年、ナギ・ハインリヒ・シュナイダーと、いつしか心を通わせて……、といったお話です。
敵対都市を焼き払い、この世界を焼き尽くして、なんの意味もない、くそったれの人生を全力で終わらせようとする、ディドル・オルガと。
ディドル・オルガの原子力兵器に、その美しさを、その生命力を利用される、「観測する主体によって美しさが変わる」世界一の美少女、サクラコと。
言語によって他者へ干渉し、支配し、強烈な想像力を使っておのれの肉体の書き換えも可能とする『子ども』、ナギと。
そして、地上部隊や飛行艦隊と凄絶な戦いを繰り広げながら「丁都」に迫る、謎の巨大な炎の怪物と――。

生き抜く勇気をわたしにくれ。痛みに耐えて生きるための希望を。こんなすがたになってもまだ生きていく価値がこの世界にあるのだと信じさせてくれ。

もちろん素直に、(『とある飛空士への追憶』にも通ずるような)とびきりのラブストーリーとしても読めますし。
「想像力で世界を変える」ボーイ・ミーツ・ガールの物語としても、また他にも、想像力次第でいろいろな読み方のできそうな、そんな面白い作品でした。