『金の瞳と鉄の剣』

魔法少女まどか☆マギカ』『Fate/Zero』などで知られる、虚淵玄(うろぶち・げん)先生(ニトロプラス)の、星海社ウェブサイト『最前線』での連載作。
その連載第一回から第四回までの内容に加筆訂正を行い、さらに50ページに及ぶ書き下ろしを加えたものが、先々週、4月14日に、単行本として発売されました。
虚淵玄先生と言えば、本業(?)のゲームシナリオライターのお仕事として、来月、5月27日に、サイバーパンク武侠片『鬼哭街』が発売予定となっています。
こちらは、2003年に発売された『The Cyber Slayer 鬼哭街』のフルボイス&一般対象化作品で、演出やグラフィックも旧作から一新されているようです。
さてそれでは話を戻して、高河ゆん先生による描き下ろしイラストも3点追加された、『金の瞳と鉄の剣』第1巻の感想です。


(残りの17行、ネタバレあり)
野心に燃える戦士・タウと、無欲そのものの魔術師・キア――固い絆で結ばれた二人の冒険者を主人公とする本作は。
今のところ、各エピソードがそれぞれ一話完結の、連作短編集っぽい形式の作品となっています。
龍退治とキアの峻烈な自己探求を描いた『龍の峻嶺』。妖精郷に迷い込んだタウの“邯鄲の夢”を描いた『永遠の森』。
宝探しの最中に人生の目的について考える『古城の盗賊』。都市を舞台にしたタウの“冒険”とキアの人間研究が思わぬ騒動を巻き起こす『陰謀の街』。
ウェブ連載された、以上4編のほか、単行本には、タウとキアの馴れ初め(笑)ならぬ、出会いと旅の始まりを描いた書き下ろし、『旅立ちの夜』を収録。

だから、母の面影を想うことすら止めた時点で、タウの精神からは想像力というものが枯渇した。そんな己を不憫だと思ったことさえない。周囲には似たような境遇の同類が珍しくもなくごろごろしていた。

両親の顔も知らない孤児として、ただ昨日死に損なったというだけの今日を生き、死の予感とともに明日を待つだけの青春を過ごしてきたタウは。
傭兵の仕事で訪れたとある村で、ちょっとした好奇心と、ただ過酷なばかりで目的もなければ展望もない、そんな出口のない生に倦む想いから。
村長の禁を破り、禁断の蔵の中を覗き見て、そこにたった一人で幽閉されているキアと出会います。
人目を忍び、夜ごと逢瀬を重ねる(笑)二人のことは、やがて村人たちの知るところとなり、タウはキアを連れて村を逃げ出す決心をします。

キア:「……僕はこの蔵の中にいたから、生きることを、己の在り方と向き合うことを放棄していられた。でも外に出たらそうはいかない。僕は問い続け、選び続け、挑み続けることになる。」

キアを囚われの身から救い出してやったつもりのタウでしたが、救い出されたと言えるのは、生きる意味を見失っていたタウの方も同様で――。
ともに手を取り合って、新しい人生へと踏み出したタウとキア。
「初めて胸に滾るものを手に入れたこの夜を、彼は生涯、忘れることはないだろう。」――仲睦まじく、いつまでもお幸せに。
……なんて冗談はさておき(笑)、「生きること」「己の在り方」に真正面から向き合った、このファンタジー。
虚淵玄先生、高河ゆん先生、ともにお忙しいためなのか(?)、更新ペースはややゆっくり目ですが。
タウとキア、二人の旅の道行きを、ぜひ最後まで語りきってほしいです。