『サクラダリセット』『同 2』

おととし、2009年6月より刊行開始の小説シリーズ。
去年12月発売の『月刊少年エース 2011年2月号』からは、吉原雅彦先生による漫画版の連載も始まっています。
作者の河野裕(こうの・ゆたか)先生は、この『サクラダリセット』が実質的な小説デビュー作となるようですが。
もともと、安田均先生率いるゲーム・デザイナー集団、グループSNEに所属していた(現在も)、とのことで。
グループSNE公式サイトでは、『サクラダリセット』発売時の著者インタビューも読めます。
さてそれでは、現在第4巻まで刊行中の『サクラダリセット』シリーズ、その第1巻と第2巻の感想です。


(残りの24行、ネタバレあり)

浅井ケイ:「リセットだ」
たった一言。
それだけで、世界は、三日分死ぬ。

住民のおよそ半数が特殊な能力――それぞれ何かしらの制限はあるものの、「大抵は物理法則に反した能力」――を持つ、でもそれ以外はあまりに普通な街、咲良田。
そんな街の高校で「奉仕クラブ」に所属する主人公とヒロインが、擬似的に時間を巻き戻す「リセット」の力を使って、能力をめぐる問題に関わっていく物語です。
物理法則に反するような強力な能力を、この作品のように、現実の現代の日本とそう変わらない世界に導入するのは、(本来は)とても難しいことだと思います。
なぜなら、下手をするとそれが原因で世界が崩壊してしまいかねないし、そうでなくても、科学が・社会が・世界が、それに合わせて大幅に組み換わるだろうからです。
でも、この作品では、そんな大事にはなりません。と言うのも、そうした能力は、あくまで咲良田の中だけに留まっていて、咲良田の中でも上手く管理されているからです。
もう少し具体的に言うと、咲良田の外に出ると、誰も彼もが「能力のことを忘れてしまう」、つまり使えることを知らない、使えない状態になり。
そしてまた、咲良田の内でも、「管理局」と呼ばれる公的な機関が、人々の特殊な能力を管理し、色々な問題を処理しているのです。
第1巻を読んだとき、どうも自分は、このあたりが引っかかって・気になって。
咲良田外では能力のことを忘れてしまうって、でも、じゃあ電話は?・ネットは?とか。咲良田内での能力の悪用についても、抜け道はいくらでもありそうです。
ところが、第2巻まで読んでみると、そうした印象は違ってきます。
咲良田の能力が初めて観測されてから、あり得ない速度で「管理局」が創設されたという、不自然な事情が明かされたり。
「管理局は、能力を管理できるという幻想を作り出した。あくまで幻想だ。実態はまったく違う。」などと、「管理局」の限界が強調されたり。
もしかして、実は作者はこの件に関して、種明かしなり裏設定なりを、ちゃんと用意しているんじゃないか、と。
第1巻でも第2巻でも物語の鍵となるアイテム・「マクガフィン」も、そんな作者の周到な準備を裏付けているような気がします。

相麻菫:――伝言が好きなの。

相麻菫:幸せな言葉や些細な言葉を、人から人に、たくさん伝えたい。

浅井ケイ:――もし伝える言葉が、悲しいものなら?

相麻菫:「伝え方を工夫するわよ。それが伝えるべきことなら、正しい方法で、正しい言葉を使って、正しく伝える」

それを手にした者は、咲良田の能力全てを支配できると噂されている、「マクガフィン」とはいったい何なのか。
二年前、春の終わりに主人公とヒロインを引き合わせた少女は、そして夏の終わりに、なぜ死んでしまったのか。
次回の更新は、『サクラダリセット』第3巻と第4巻の感想の予定です。