『All You Need Is Kill』

アニメ化もされた「よくわかる現代魔法」シリーズなどで知られる、桜坂洋(さくらざか・ひろし)先生の作品。2004年発行。
今年4月に、この『All You Need Is Kill』を原作にした脚本の映画化権(?)が、アメリカのワーナー・ブラザーズに売れた、というニュースがありましたが。
つい先日、具体的に監督が決定したというニュースもあったりして。ほんとに(!)ハリウッドで映画になるんですね、この作品。
桜坂先生に関して言えば、映画化の話題以外にも、作家や漫画家など書き手が集まり、出版社を介さずに直接読み手に届ける、オリジナルの電子書籍『AiR』への参加や。
AR(Augmented Reality:拡張現実)の技術を使った一連の実験など、新しい試みにも積極的に取り組まれています。
では以下、本作『All You Need Is Kill』の感想です。


(残りの12行、ネタバレあり)

キリヤ・ケイジ:それだけがぼくにできることなら。
なにも変わらぬ毎日を変化させる方法なら。
クソったれな世界に対する、唯一の反抗であるのなら。

ストーリーとしては、異星から飛来した「ギタイ」と呼ばれる未知の敵に対して、人類がその存亡を賭けて戦う世界を舞台に。
訓練校を出たばかりの主人公が、とあるきっかけにより、初出撃日とその前日をなぜか延々と繰り返すことになって……、というお話。
前のループから持ってこられるのは記憶のみ。ただし物理的戦闘能力は、兵士の装着する機動ジャケットにより、常に一定レベルまで強化されるという状況下での、最適化。
「一秒を切り刻め。」なんて言葉も出てきますが、そんな高密度の時間にしびれます。
敗北必至の絶望的な戦場で、ほんのすこしだけ開いている確率の扉をこじあけて、主人公はまだ見ぬ明後日の世界へたどり着けるのか――。
「ギタイ」や「統合防疫軍」など、もっともらしい設定と作品世界を備えた、良く出来たミリタリーSFであると同時に。
否認、怒り、後悔、悲しみ、無感動、そして再定義、といった、喪失とその受容体験をモチーフとする、普遍的な作品でもあるように思いました。
その喪失が、時折言及されるハイスクールの司書に失恋したことか、ヒロインに重ね合わせられるような近しい人との別れか、あるいは他の何かなのかは分かりませんが。
巻末あとがきにある表現を借りれば、「氷のように冷たく静かな」感動が胸に残る、切なく、そしてとても面白い作品でした。映画の方も楽しみです。