『空の境界』

劇場版DVDシリーズ完結記念ということで、せっかくなのでこの機会に、原作小説(文庫版)の方の感想を。
劇場版DVDももちろん全巻買って(最終巻は予約して)あるんですけど、時間のあるときにまとめて観ようとか思っているうちに、なんだかとんでもないボリュームに……。


(残りの16行、ネタバレあり)

両儀式:……幹也はいつも人の心の在り方を心配する。
    そんなの、どうでもいい事だっていうのに。

文庫版は上・中・下巻の3巻構成で、各巻の巻末にそれぞれ、綾辻行人先生、菊地秀行先生、笠井潔先生による解説が付いているのですが。
上巻の巻末解説に、ネタバレっぽいことが書いてあるのです。
それを見て、ここまで上巻を読んできたけど、(ストーリーがそんな展開になってたなんて)ぜんぜん気づかなかったよ、というのと。
まだ中巻・下巻と続くのに、途中でネタバレなんて、というのとで、二重にちょっとショックだったんですけれど(笑)。
結論から言うと、それは(自分にとっては)全くの杞憂でした。
と言うか、下巻の本文を最後まで読んでも、上巻の解説にあったような“種明かし”はおろか、“事件”すら見当たらなくて。
“事件”が起きたこと自体を気づかせないミステリも、ある意味斬新だよな、なんて寝ぼけたことを思いながら、下巻の解説を読んでみると――。
ああ、そうかー!と。“事件”はちゃんと起きてて、“名探偵”が思いっきり“種明かし”までしてる……。自分のボンヤリ加減に、さすがに愕然としました(笑)。
これも下巻の解説にあることなんですが、自分はどうも、「教養小説」的な物語観で読んでたみたいで。
つまり、荒耶宗蓮をある意味、“主人公”としてとらえていた感じなのです。(もちろん彼が実際にやってることは、到底許されないことですけど。)
そして、「起源」(あるいは来歴)に固執する荒耶と、その空虚さ(あるいは恣意性)を暴く式。その2者・2つの、相克の物語なのかなと思ってました。
あと、「生きている実感」とか「人間の価値」とか「永遠」とか「夢」とか。それぞれをとにかく深く掘り下げて、登場人物達によく反映してあるなあ、と。
今回改めてざっと通して読んでみて思ったのですが、各キャラ同士が何重にも対比関係になっていて。本当によく練り上げられた構成だなと思いました。
きっと作者の思いの丈が詰まった作品なんだろうなという気がします。そういうところが一番好きです。