『ウォンテッド』

ナイト・ウォッチ』の大ヒットでロシアの歴代興業記録を塗り変えたという、ティムール・ベクマンベトフ監督のハリウッドデビュー作。
ブルーレイで見ようと思ってたんですが、WOWOWで放送されていたのでそちらで視聴しました。
ちょっと意外性のある、とても面白い作品でした。


(残りの16行、ネタバレあり)

フォックス:「なぜ来たの?」

あらすじとしては、ストレスいっぱいでもうウンザリな毎日を送っていた主人公が、ある日突然、驚異の暗殺術を持つ謎の秘密結社にスカウトされて……、というお話。
この映画には、現実には到底ありえないものがたくさん出てきます。
まず、あらすじとして紹介したようなストーリー。(これは逆に、フィクション(の導入部)としては結構ありがち(なパターン)でもあります。)
それから、その、驚異の暗殺術。めちゃめちゃかっこいいんだけど絶対不可能なような、ガンアクション、カーアクションが次から次へと目白押しです。
そして、ある意味、それら以上にありえないと思ったのが、アンジェリーナ・ジョリーさんの登場シーン。
スーパーマーケットの薬売場で、主人公がはっと横を見ると、彼女が立っているんですが。
少しくたびれた感じのスーパーの、白々とした蛍光灯の下で、かのハリウッド女優が、いきなり目の前に立ってるんですよ。こちらを見つめて、微笑みながら。
映画としてもそれは狙った効果で、ここはこういう反応が正解だと思うんですけれど――、あまりにも現実離れしてて、吹き出してしまいました。ありえない(笑)。
あと、意外だったのが、ストレートなメッセージ性。
たしかに考えてみればことあるごとに、そんなテーマに関係するあれこれが出てきてましたけども。まさかこういう映画で、そういうメッセージが提示されるとは。
でも、ストレートというのは、実は一面的な見方でしかなくて。その分かりやすさとは裏腹に、とても興味深い制作者側の企みがあるような気がしてきて。
つまり、その一見ストレートなメッセージと、シリアスな部分にもコミカルな部分にも見られる、馬鹿馬鹿しいまでの虚構性によって。
映画に限らず、物語を見る・読む・体験するというのは、「別の人生」を疑似体験することなのだという意味で、この作品のメタ構造を浮き彫りにしてるんじゃないかと。
それは最後のセリフが、たとえああいう形ではなかったとしても。そしてまた、別にこの映画は暴力礼賛してるわけじゃないよ、という言い訳以上のものとして。
そういうことが見終わった後、おぉ〜!、といった感じでつながる、ちょっと爽快な作品でした。