『末代まで! LAP1』

例年「該当作なし」に終わることも多い、角川学園小説大賞の、6年ぶりの大賞受賞作。
そうした話題性もさることながら、小説の作者自身がその小説のイラストまで描いている、というのに興味をひかれて、読んでみました。
自分は知らなかったんですが、作者の猫砂一平先生は、プロとして普通に作品も発表されてる、漫画家さんでもあるようで。
本作でも冒頭、プロローグ的な部分が、なんとカラーマンガで収録されています。


(残り12行、ネタバレあり)

見えようが見えまいが、在るものは在る!

内容としては、本物の“幽霊部員”が見えてしまったために、「老婆走」という謎のレースに参加するハメになった少年を主人公とする、学園ラブコメディー。
「老婆走」というのは、幽霊を“エンジン”に、幽霊の気合を“燃料”にして、霊能力者が“乗り手”となって、妖怪(「ババア」)を走らせて行う、レースのことです。
そして霊能力者は「ババア」の“運転”以外にも、パートナーである幽霊のやる気を引き出したり、除霊術でライバル側の幽霊のやる気を奪ったりするのですが。
この除霊術にもいろんな種類があって、主人公達が使うのはこのうちの、結界術の一種。で、これがまるっきり数学と言うか、プログラミングなんです。
と言っても、難しい数式とかは一切なし。“絵筆”(「人魂」)を規則正しく動かして、空中に“図形”(「結界」)を描くだけの、簡単な仕事です(笑)。
こういう、手順を踏めば誰にでもできて、しかも単に「エレガント」な図形が描けるだけじゃなく、実践の場でその効果が目に見える、っていうのはいいよなあ、と。
その他にも、そもそも除霊術というのは、「意識のカタマリ」である幽霊の、「心を深く打つような、感動的な『芸』」であるとか。
レース中、幽霊の気合が霊能力者に注入されることによって、幽霊の過去の記憶を見ることになるとか。設定と作劇がうまくかみ合ってるなー、と思いました。
あと、角川書店公式サイトの『末代まで!』特集ページや各種宣伝媒体で、いくつも4コママンガを描いてるのもすごい。さすがに本当に「週刊」ではないみたいですが。
主人公は今回、苦手科目を1つ克服したかたちになってますけど、他の2つも今後の展開に関係してくるんでしょうか。
タイトルに「LAP1」とあるように、続編も当然出るんですよね? 表紙や4コママンガから想像してたのとはまた違った楽しさのある、なかなか奥の深い作品でした。