『夜は短し歩けよ乙女』

森見登美彦先生の山本周五郎賞受賞作。
自分は先生の作品は『太陽の塔』と『四畳半神話大系』とを読んでますけど、それらとはまた違った魅力のある、評判通りのとても楽しい作品でした。


(残りの12行、ネタバレあり)

羽貫さん:「人間として、力の入れどころを激しく間違っているよね」

本作では、『太陽の塔』や『四畳半神話大系』と違って、物語が主人公視点からだけでなく、ヒロイン視点からも語られます。
とは言え、ヒロイン・「黒髪の乙女」は、「天狗」とか「古本市の神様」と同じレベルの、“架空の生き物”的な造形にしてありますけど(笑)。
一方、主人公の方も、前2作と比べて、さらに軽妙な設定に。
前2作では主人公は、目に映るものすべてを、独特の感性ですっかり塗り固めちゃってたと言うか。それがすごく可笑しくもあり、またどこか哀愁も感じたのですが。
本作でも主人公は、「迂遠すぎる」青春の日々を送ってはいるものの。時折、“素”のまんまと言うか、あるいは逆に第三者的に、物事を普通に面白がる一面も見せて。
そういう主人公視点とヒロイン視点の相乗効果が、自分的には注目でした。
あとは、前2作と同様に、京都が物語の舞台となっていて。おなじみの「下鴨幽水荘」や「映画サークル「みそぎ」」や「詭弁論部」なんかも出てきます。
そして、そうこうするうち、いつの間にやら、ちょっと不思議でヘンテコな、森見先生ワールドに引き込まれてました。
終盤、ヒロインの一大事に、「これ以上ないぐらい曖昧で」「まったく馬鹿にしている」樋口氏のアドバイスを受け、主人公はついに――?
なんだか無性に、久しぶりに京都へ行きたくなってしまいました。
巻末の羽海野チカ先生のイラストとコメント、「かいせつにかえて」も素敵です。