『制覇するフィロソフィア』

『ジハード』の定金伸治先生の、2006年5月発行の作品。
先生の公式サイトの日記によれば、体調不良で一時中断している『四方世界の王』の連続刊行が、12月にも再開される見通しのようで。
これは全く自分の早とちりで、講談社BOX公式ホームページによれば、『四方世界の王』第5巻は、2010年6月刊行予定です。申し訳ありませんでした。
そして先週発売になったばかりの『少年シリウス 2009年12月号』では、その漫画化作品もスタートしています。
さて話を戻して、本作『制覇するフィロソフィア』ですが、巻末あとがきの狙い通りの、大変熱い、そしてとても面白い作品でした。


(残りの18行、ネタバレあり)

御間城和:「おれの『哲』は『かたち』だ!」
獅戸エール:「イデア論か。また古くさいものを持ち出したものだ」

作者による巻末あとがきがこの作品の魅力を非常に良く説明していると思うので、その流れに沿って進めますと。
「『友情・努力・勝利』を旗印にしていた少年漫画のノリを」「現代的な形でさらに前進させて」小説にする、という作者の意図は、十分に達成されていると思います。
それぞれのキャラが持つ哲学(『哲』)が、闘いにおいて、認識はおろか肉体にまで影響を及ぼす。精神的にといいうレベルを越えて、文字通り物理的に、という世界で。
(「萌えに走った」わけではなく、)なぜか全員女性である登場人物達が、「帝」を目指して「帝塾」で死闘を繰り広げる、という物語。
自分は特にその「思想を武器にして闘う」という点が面白かったです。具体的なそれぞれの『哲』の有り様も、よく考えてあるなー、と。
あと、作品の成り立ちからして、「『友情・努力・勝利』漫画へのリスペクト」が入っているそうなんですが。
自分は元ネタの漫画をよく知らなくて、塾長の決めゼリフくらいしかはっきりとは分からなかったんですけれど。それでも雰囲気は伝わってくるし、問題なく楽しめました。
それから、上記以外の、あとがきでは言及されていないことを付け加えるなら。
なんと言えばいいのか、講談とかバナナのたたき売りといった感じの、一人ボケツッコミを交えた情景描写も面白かったです。なんかこう、独特のライブ感があって。
で、ストーリーは終盤、実はSF?的な背景もかいま見せつつ、「暗雲漂う結末」、続巻への強力な引きで終わっている。のですけれど。
本作出版から3年以上経過している2009年10月現在、続編は刊行されておりません……。なぜ?
スーパーダッシュ文庫ホームページのインタビューでは、「2巻と3巻のお話はだいたい考えてるのですが、なかなか面白いような気がしてます」とのことだったんですが。
何でしょうか、タイミングとかが悪かったんでしょうか。それとも何か別の、大人の事情とかなんでしょうか。あるいは単に、先生がお忙しいだけ?
物語的には、主人公達はまだ、13あるグレード(「房室」)の一番下をクリアしたばっかりで。設定的にも、『哲』ネタはまだまだたくさんありそうだし。
「関わり合いによる美しさ」とか「その向こうには、不変の何かがあるはず」とか、主人公のレベルアップ(というか、クラスチェンジ?)の道も用意してあるっぽいのに。
良く出来たお話だと思うし、自分の好きなノリでもあるので、これで終わりにしてしまうのはもったいないし残念だし、ぜひ続編出してほしいです。