『星海大戦』

『全死大戦』シリーズなどで知られる、元長柾木(もとなが・まさき)先生の、星海社ウェブサイト『最前線』での連載作。
その連載第一回から第十回までの内容に加筆訂正を加えたものが、先週、4月14日に、単行本として発売されました。以下はその感想です。


(残りの29行、ネタバレあり)

青二才であることは力だ。
無知、未熟、世間知らず。そのように見なされることは、他者からの干渉を小さくする。また責任の回避も可能にする。軽侮は自由を生むのだ。

まず、ウェブ連載版との違いについてですが、ざっと読んでみて、大筋としてそれほどの変更はない感じです。
とは言え、表現の手直しや説明の補足は確かにあって、主人公の一人、九重有嗣の心情描写的な文章である、上記引用箇所もそのうちの一つです。
さて、これはウェブ連載版からしてそうなのですが、この作品、冒頭の状況説明、序章がけっこう長いのです。
読みやすさという点で、そんな構成で大丈夫か?と、ちょっと心配になってくるほどに(笑)。
でも、いざ主人公たちが登場して動き出してくると、そんな余計な心配は吹き飛んで、ぐいぐい作品に引き込まれる感じで。
いわゆる、キャラが立っていると言うか、それぞれの登場人物が独自のプライド、美学を確かに持ってると言うか。
ストーリーとしては、突如現れた謎の存在に地球圏を奪われた人類が、木星圏と土星圏に分かれ、人類同士で戦争を続ける、現代から500年ほど未来のお話。
この時代、戦争の主役は、宇宙船(「航宙艦」)なのですが。
「ノウアスフィア」という特殊な“場”を船体周囲に展開し、格段の高機動を実現する航宙艦は、旧来のレーダーを無効化してしまい。
宇宙空間における戦闘は、暗闇のなかで手探りで敵を探りあてるような、往古の潜水艦戦以下のとてつもなく原始的な状態へとおちいっています。
この「暗闇のなかで手探りで」というのは、キャラクターの人物描写にも当てはまるように思います。
特に主役級の登場人物に関しては、生い立ちにまでさかのぼって、一見、何でもないようなエピソードを積み重ねながら。
そうして今現在、まさに行われている戦闘にまでたどり着いて、そこでその美学が発揮される、結実する。そこに爽快感、カタルシスを感じます。
そしてそんなパズルのピースがピタッとはまっていくような感覚は、全体のストーリーや作品テーマに関しても、やはりあるような気がするのです。
もちろん物語は始まったばかりで、まだはっきりとした形を取ってはいませんが。
「ノウアスフィア」は人間の精神に重大な悪影響を与えるため、航宙艦の乗員は、「ノウアスフィア」に耐性をもった若者たちで占められます。
「グリーンホーン」と呼ばれるそうした者たちが、なかでも特に主役となる三人の若き天才軍人が、星の海を舞台にぶつかり合う、これはそんな物語。

有嗣は心中で確認した。自分は青二才なのだ。戦場でちょっとした邂逅があったくらいで、青二才であることを忘れるわけにはいかないのだ。

ただ一言、つぶやいた。
「……次は勝つ」
クラウディオのなかで渦巻いている想いは、ただそれだけだった。

――青二才上等!(笑)
この第1巻では、その主人公の三人がはじめて同時に参加した戦いが、主に描かれているのですが。
転章となる最後の章では、「生理的なレベルで社会に構築された枠組み」を「何となく「こつ」のようなもの」で抜け出ることができる(『全死大戦』風の)人物や。
太陽系全体に大きな影響力をもつ大企業経営一族の現当主でありながら、見た目は10代前半の(どうも普通の“人間”ではなさそうな)少女も登場したりして。
ウェブサイト『最前線』では、この『星海大戦』第1巻のすぐ続きとなる、連載第十一回の公開も開始されましたが。
ほんとに毎回、ワクワクしながら読んでます。最終的にどんな傑作になるのか、今から楽しみです。