『デカルトの密室』

瀬名秀明(せな・ひであき)先生の2005年刊行の作品。(ただし今回、自分が実際に読んだのは、2008年発行の文庫版です。)
瀬名先生と言えば、映画化もされた日本ホラー小説大賞受賞の『パラサイト・イヴ』や、日本SF大賞受賞の『BRAIN VALLEY』など、多数の著作で知られているわけですが。
先週末、3月5日公開の『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団』に合わせ、先月末、2月25日に、『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』が発売となっています。
こちらの『小説版ドラえもん』は、藤子・F・不二雄先生の漫画『大長編ドラえもん のび太と鉄人兵団』を、瀬名先生独自の視点で掘り下げたノベライズ作品のようです。
ちなみに、これから感想を書く『デカルトの密室』にも、「未来の国からやってきた」「あのネコ型ロボット」というフレーズが出てきます(笑)。


(残りの15行、ネタバレあり)

一ノ瀬玲奈:「――一、世界は成立していることがらの総体である」

この作品のプロローグには、(そしてエピローグにも、)「これは「知能」についての物語だ。」とあります。
「なぜ人々は知能に魅了され、知能に幻惑され、知能の謎に搦め取られて、ときに殺人まで起こしてしまうのか、そういったすべての謎についての物語だ。」とも。
この物語の主人公は、ヒト型ロボットと、そのロボットを開発したロボット工学の研究者です。
彼らが「知能」をめぐる連続殺人事件に否応なく巻き込まれ、その過程を通して、彼らの(精神的成長ならぬ)“知能”的成長と、犯人たちの途方もない計画が描かれます。
この宇宙の中に存在することで、「モーション」として実世界に顕現する、ロボットの知能と。
確固たる物体としての身体を持つこと、得体の知れない精神活動としての心を自覚してしまうこと、それらから解放された、唯一無二のユニークな自我と自称する犯人たち。

真鍋浩也「唯一無二の己を獲得したくないのか。そのぼくを〈ぼく〉にしたくはないのか」

ケンイチ:「でも、もう〈ぼく〉になっているよ。だって、ぼくは小説を書いているから」

自我というのは一回限りの逐次プロセスで、「持続」ということに意味がある、みたいなところに、特に共感を覚えました。
デカルトからヴィトゲンシュタインに向けて補助線を引いたその先にある、「論理学」と「倫理学」とは何なのか。
執拗に主人公たちに関わってくる、犯人たちの真の目的は何なのか。
そして「自由」とは、いったいどういうことだと言えるのか。
作者の瀬名秀明先生は、東北大学の機械系特任教授も務められていたそうですが。
哲学、認知科学、ロボット工学といった、幅広い分野の豊富な知識に裏打ちされた興味深い議論と、“密室”ミステリが融合した、とても面白い作品でした。