『ヴィークルエンド』

悪魔のミカタ』シリーズや『紫色のクオリア』などで知られる、うえお久光(うえお・ひさみつ)先生の作品。昨年、2010年7月発行。
先週、1月27日発売の『月刊コミック電撃大王 2011年3月号』では、その『紫色のクオリア』が、綱島志朗先生の作画でコミカライズされ、連載開始しています。
話を戻して、本作『ヴィークルエンド』についてですが、あとがきによれば、「……ちなみに、今作で完結していますのでご安心ください。」とのことです。


(残りの11行、ネタバレあり)

羽鳥哉視:身体の中に『熱』があり、叫んでいる。求めている。それだけはわかる。けれどなにをいっているのか、なにを求めているのか、わからない。わからない。ただ、ただ、激しい『熱』があるのが知れるだけ――

生まれてくるすべての子供が先天的「欠陥」を持ち、『サプリ』と呼ばれる補助剤なしでは、感情の制御が・「人間らしい健常な感情生活」が不可能になった近未来。
そうした必要な『サプリ』使用の延長として、それらをさらに複雑に、多種多量混ぜ合わせ、(あくまでも「錯覚」として)脳内に仮想の操縦席を生み出して。
自分自身を極限までコントロールし、身体能力を向上させ、(忍者のように)街を飛び回って、その速さを競う『ヴィークルレース』と、そんな時代の少年少女の物語。
幼い頃、なぜだか船上から真っ暗な夜の海へとすっぽんぽんダイブを敢行し、一糸まとわぬ恥ずかしい格好で救助されたという「抹消したい最たる過去」を持つ主人公が。
仲間とともにチームを結成して、日本一をとりあえずの目標に、きわめて現実的に、かつ積極果敢にレースに取り組んでいた最中。
偶然、『新世代アーティスト』と言われる歌姫と出会い、自らの『熱』の正体、渇望の真実と向き合って、そして――。

羽鳥哉視:幻視ではない。あのくらい海で見た星空ではない。ただ月だけが浮かぶ空。大きな月。本物の月、輝く月――いや月光なんて存在しないけど。月の光の正体は単なる太陽光の反射だけれど――

……と、自分が興味を持ったテーマに重点を置いて、あらすじをたどってきましたが。そういった部分だけでも、メッセージとして、自分はすごく共感できたんですが。
実際には、本作はもっと、(主人公が何気にモテモテの(笑))青春サクセスストーリー的な部分が前面に来ていて、そちらだけでもじゅうぶん楽しめます。
でも、そんな一見、快感原則を満足させるような展開も、要所要所で、テーマとしっかりリンクしてる感じで。そういう意味でも、非常に面白い作品でした。