『カラフル』

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』や『河童のクゥと夏休み』などで知られる、原恵一(はら・けいいち)監督の最新作。見てきました。
2000年にはすでに実写映画化もされている、直木賞作家・森絵都(もり・えと)先生の同名小説が原作です。


(残りの19行、ネタバレあり)

早乙女:「無くなったものも、俺とかが興味を持てば、ちょっとだけよみがえるじゃん。」

主人公たちが廃線になった路面電車跡をたどっていくシーンでの台詞。
この台詞だけでなく、廃線跡を訪れるエピソード自体が、(映画冒頭の鉄道駅を思わせる描写と並んで、)原作にはない、この映画オリジナルの設定です。
ストーリーとしては、生前、大きな過ちを犯して死んだ主人公の魂が、再挑戦のチャンスを与えられて。
自殺した「小林真」という少年の体に入って“ホームステイ”をしながら、自分の犯した罪を思い出さなければいけなくなって……、というお話。
生前の過ちとは何か?、そもそも自分は何者なのか?といった謎を絡めつつ、自殺した少年の日常を“赤の他人”の視点から見つめ直す、というのが面白いと思いました。
一方、映画全体としては、演出のストイックさが強く印象に残りました。原恵一監督の前作『河童のクゥと夏休み』よりも、さらにその度合いが上がっている感じ。
たとえば、“ホームステイ”の描写では、「小林真」の体験しただろうストレスフルな日常を、まるで定められたレールの上を進む列車のように、丹念にたどります。
映画を見た後で原作小説(文春文庫版)も読んでみたんですが、この点に関しては原作はもっとあっさりしていて、まさに“他人事”という感じがよく出ています。
原恵一監督も、劇場パンフレットの中で、「自分が何者だかわからない身軽さ、無責任さみたいなことをイメージし続けていました。」とおっしゃっていますが。
その前に、「人間ってダメな部分はそう変わらない。」という発言もあって、そういう思いが反映された結果でもあるのかな、と。
同じく劇場パンフに、「映画全体としては、この作品は走っちゃいけないという気持ちがあったので、歩いているペースで作ろうと思っていました。」とあるんですが。
前世の罪とか、主人公の正体とかいった謎に関しても、スケッチブックの場所などで(←たぶん)それとなく匂わせるだけで。
原作にはある、美術室でのちょっと劇的なイベントなどもなく。そうした意味でもストイックさを強く感じました。
あと、本筋とはあまり関係ないと思いますが。自分は(いつものように)ぼけっと映画を見てたので、いじめが現在も続いているように受け取ったんですが。
原作小説では、いじめは中学1年の時の話で、今は単に心を閉ざして、クラスで孤立してるだけって感じのようでした。
いじめの程度にもよりますが、そうじゃないと、早乙女くんの登場とか、今の担任教師の反応とかが、ちょっと違和感あるかも知れません。
映画なので、フィルムにプリントされた後は、もちろん変化したりしないわけですが。
この変わらない127分のフィルムの中に、プリズムのように、さまざまな色を見せる「カラフル」な世界を閉じこめた、そんな硬質な作品だったと思います。