『ハーモニー』

去年3月に亡くなられた、伊藤計劃(いとう・けいかく)先生の第30回(2009年)日本SF大賞受賞作。
伊藤先生と言えば、今年2月に、デビュー作『虐殺器官』が文庫化されて、かなり売れ行き好調らしく。
また今年3月には、単行本としては未刊行だった短篇やエッセイやインタビューなどを収録した、『伊藤計劃記録』という書籍も発売されています。
伊藤先生については、先週、asahi.com(朝日新聞社)でも、文化トピックスとして記事になってました。


(残りの11行、ネタバレあり)

御冷ミァハ:このからだも、このおっぱいも、このおしりも、この子宮も、わたしのもの。

ストーリーとしては、2019年に発生した〈大災禍〉と呼ばれる虐殺と混沌の時代の後。その反動として、極度の生命至上主義的社会が築き上げられた世界を舞台に。
そうした、真綿で首を絞めるような、思いやりと共同体意識にあふれたセカイを憎み。そんなセカイへの攻撃の一環として、友人たちと自殺を試みた主人公が。
今や大人になって、世界を揺るがす未曾有の大事件の真相を追うなかで。かつて一緒に死のうとして、一人だけ死んでしまったはずの友人の影を見る、といったお話です。
自分は伊藤先生の本は初めてだったのもあって、読む前は単にSFとしか認識していなかったんですが。実際は(ミリタリー)サスペンス&SFといった感じの内容でした。
で、そのサスペンス成分がお話をグイグイ引っ張ってくれて、特に面白かったです。
哲学的ゾンビ”的な話題もありますが、人間の尊厳までも「外注」させられかねない、そんな相互監視社会への警鐘あるいは異議申し立てとして、素直に受け取りました。
あと、例えばウェブページを作成する時、普段見慣れた形でブラウザにページを表示させるには、単にテキストファイルを用意しただけではダメで。
本文の前と後にそれぞれ「」と「」を付け加えるというように、ページ内に“注釈”情報を埋め込む必要があるんですが。
この作品ではそれと似たようなことをやっていて、そうした“仕掛け”にもゾクッとしました。
とてもよく出来た、骨太のエンターテインメント作品だったと思います。