『月見月理解の探偵殺人』

第1回GA文庫大賞・奨励賞受賞作。
「受賞作中、最大の問題作が登場!」というキャッチコピーがついてますが、なんだか面白そうだったので、読んでみました。


(残りの14行、ネタバレあり)

都築初:僕たちはあらゆる嘘の中で、真実を見繕って生きている。

あらすじとしては、突然クラスに現れたヒロインが、周囲には悪意むき出し、でもなぜか主人公にはベタベタつきまとい、一緒に主人公の父の死の真相を探る、というお話。
なんて書くと、まるで二人が仲良く協力して、みたいに思えるかもですが。実はそうではなくて。
なぜなら、ヒロインが犯人候補の筆頭にあげるのが、主人公の妹だから。妹の無実を信じる兄としては、当然妹を守るべく、助手として調査に関わることになります。
こうして、協力しつつも騙し合いつつ。現実の調査に、主人公とヒロインが出会うきっかけとなったネットゲームも織り交ぜながら、ストーリーが進行していきます。
さて、ミステリーというジャンルで割合よく見るパターンなような印象があるのですが、本作の主人公は、読者の知らない、いくつかの秘密を抱えています。
要するに、人の心こそが最大のミステリー、というわけなんですが、このタイプのお話は一般に、読者としては感情移入しづらい面もある気がします。
その辺りをこの作品では、主人公とヒロインの掛け合いとせめぎ合いによって、非常にうまく解消して、ストーリーに引き込んでくれたように思いました。
作品全体としては、人の悪意や負の面なんかも描きながら、意外に真っ当な・前向きな結末で、自分的には読後感はむしろ良かったです。
でも一方で、それホント?って、思ってしまうんです。
作中でまんまと騙されたし、ヒロインの“悪意”も見せつけられた読者としては(笑)。無理してハッピーエンドにしてないか?って。
だけどそこは、この作品の(メッセージの)理解度がさっそく試されてるのかも、なんて思ってみたりして。
主人公の秘密や、出てくるゲームや、学校のこととか、一回限りっぽい設定が多いので。シリーズ化するなると、ぜんぜん別物になっちゃう気がしないでもないんですが。
今回のお話はちゃんと面白かったし、主人公とヒロインのコンビもなかなか魅力的だったので。もし続編が出たら、また読んでみたいです。