『SHORT PEACE』

AKIRA』などで有名な、大友克洋(おおとも・かつひろ)監督を始めとする5人の監督が、“日本”を共通テーマに作り上げた、5編の短編から成るオムニバスアニメ。
先週、7月20日よりロードショー中のこの作品、さっそく見てきましたので、その感想です。


(残りの33行、ネタバレあり)

  • オープニング

(デザインワーク/作画/監督:森本晃司。)
かくれんぼをしていた少女が、「もういいかい?」「もういいよ」と目を開けると、そこは見たこともない世界で、白ウサギを追って、さらに扉を開くと……といったお話。
不思議の国のアリス』へのオマージュ的な作品ですが、かくれんぼをしていた最初の場面はどうやらどこかの神社の境内のようで、少女も日本人的な素朴な感じ。
路地裏という不思議の国の、色とりどりのイメージと、それに触れた彼女が抱く/宿す、さまざまな夢のヴィジョンが、映像的快感とイマジネーションにあふれてます。
オープニングということで短い映像ですが、その中にいろんなメタファーが盛り込まれているようです。ちなみに少女の声は、“はるかぜちゃん”こと、春名風花さん。

  • 『九十九』

(脚本/監督:森田修平、ストーリー原案/コンセプトデザイン:岸啓介、キャラクターデザイン:桟敷大祐。)
嵐の夜に、山の小さな祠(ほこら)で雨宿りをしていた男が、ふと目覚めると、なぜか見知らぬお座敷にいて……といったお話。
タイトルに「九十九」(つくも)とあるように、時が経過したものに魂が宿るという、付喪(つくも)神たちと、旅の男の、ユーモラスなやりとりを描いた作品。
日本が誇る“もったいない”の精神で、長く使ってきたものを、これからも大事に使っていくべきか。それとも、もう十分に使い切ったと供養するべきか。
先日、参議院選挙があったばかりですし、そういった方面にまで、思いが及んでいきました。

  • 『火要鎮』

(脚本/監督:大友克洋、キャラクターデザイン/ビジュアルコンセプト:小原秀一、音楽:久保田麻琴。)
タイトル「火要鎮」は、「ひのようじん」と読むようです。「火の用心」の、昔風の表記かな?
裕福な商家の、年頃の娘が、親の進める縁談を前にして、幼馴染で、今は町火消しをしている男のことを、どうしても忘れられずに……といったお話。
娘の叶わぬ悲しい恋が、そもそもの背景にあるとはいえ、ちょっとした失敗と、一時の気の迷いが、美しい江戸の町を焼き尽くしてしまうわけで。
まさに、火の取り扱いには十分にご注意を、といったところでしょうか。

  • 『GAMBO』

(監督:安藤裕章、原案/脚本/クリエイティブディレクター:石井克人、キャラクターデザイン原案:貞本義行、脚本:山本健介、キャラクターデザイン/作画監督:芳垣祐介。)
突如現れた鬼に、略奪の限りを尽くされた村で、残された少女が、神秘的な白い熊と出会って……といったお話。
普通の昔話では語られない、裏側まで描いた感じの作品ですが、大写しになる白熊(実はアルビノ(白化個体)で、眼が赤い)の顔が、日の丸を連想させなくもないような。
鬼と熊の、命懸けの死闘を目にしてひるむ、少女に対し、登場人物の一人がたしか、「祈るんだったら、殺す気で祈れ!」みたいなことを言ってましたが。
いずれにせよ、見る者に覚悟を迫るような、激しさ・バイオレンスが印象的な作品でした。

  • 『武器よさらば』

(脚本/監督:カトキハジメ、原作:大友克洋、キャラクターデザイン:田中達之メカニカルデザインカトキハジメ山根公利。)
近未来、遺された旧時代の兵器を処理するため、砂漠の中の廃墟に部隊がたどり着くと、そこには思わぬ伏兵が……といったお話。
自分はミリタリーに詳しくないので、飛び交う略語がまるで呪文のようでしたが。
そうした専門用語と、臨場感のあるカメラワークと、通常のアニメの倍近いカット数で描かれる、傭兵たちのプロフェッショナルな仕事ぶりが、すごくカッコ良かったです。
「武器よさらば」というタイトルと、皮肉なオチと、そしてどうやら日本が舞台だと分かる最後の遠景が、いろいろ考えさせられました。


「SHORT PIECE」(短編)ではなく、「SHORT PEACE」(短い平和?)という、なにやら意味深なタイトルのオムニバス作品。
映画『AKIRA』を公開当時見て、衝撃を受けた方も。この前のテレビ放送やネット配信で初めて見て、「やっとモーターのコイルが暖まってきたところだぜ!」な方も。
“これが原点。”“「アニメ」を失った大人たちへ”――この機会に『SHORT PEACE』、いかがでしょうか。