『NOVA 1』

翻訳家、書評家である大森望(おおもり・のぞみ)先生責任編集の、SFを中心とした書き下ろし新作短編を集めたアンソロジー・シリーズ、第1巻。昨年12月発行。
「とりあえずは年に二冊ぐらいのペースで出してゆく計画」とのことで、待望の第2弾・『NOVA 2』が、早いところでは先週末くらいから、書店に並んでいるようです。
『NOVA 2』では、日本SF界の巨匠・神林長平先生や、先々月、三島賞を受賞されたばかりの東浩紀先生、そして宮部みゆき先生などなど、執筆陣がさらに豪華に。
「これだけのメンバーの新作が一度に揃うのはたぶん空前絶後」という宣伝文句も、あながち大げさではなくて、読むのが楽しみです。
それはともかく、話を戻して、以下、シリーズ第1弾・『NOVA 1』の感想です。


(残りの27行、ネタバレあり)

  • 小林泰三先生『忘却の侵略』

「人類に対する侵略者の攻撃はすでに始まっているんじゃないかな、って僕は思ったんだ。」という一文から始まる、未知の侵略者との戦いを描いたSF。
好きな女の子の命と、そして人類の未来を守ったかも知れない主人公の、扱われ方がすごく切ない(笑)。
あれ、もう終わり?って感じの、ちょっともったいないようなあっけなさでしたが。
作品冒頭にある大森先生の内容紹介によれば、(この作品と同様に)「小林泰三の短編群では、記憶は重要なモチーフのひとつ。」とのことで。
そうした作品群も読んでみたくなりました。

  • 牧野修先生『黎明コンビニ血祭り実話SP』

自分はこのタイトル(と煽り文句)から、(逆に)コミカルな内容を想像してたんですが。本当に「血祭り」でした……。
夜明け前のコンビニを舞台にした、想像を絶する、ハードSF・バイオレンス。
ウィキペディアにある牧野先生の項目に、「牧野修はオカルトサイドから科学を描くと言える。」とあるんですが、まさにそんな感じで。
設定的に面白そうだし、「呪禁局シリーズ」とかも読んでみようかなと思いました。

〈ぼく〉:「忌字禍はことばを書き換える、というより書き換えられる動きの中に忌字禍は、いる。」

人類が生み出し続けるあらゆる情報を、電子データ化し、相互に関連付けした、巨大なデータベース・ネットワークに。突如、深刻な不具合が発生して――、というお話。
行き詰まった捜査官が、重犯罪者専用刑務所を訪れるとき。面会相手は、超人的なプロファイリング能力を持つ、稀代の殺人者、と相場が決まっているわけですが(笑)。
では、その捜査官と殺人者が、“同一人物”だったとしたら、どうなるのか。これまで何が存在していて、そしてこれから何が起こる・生まれるのか。
ひらめきと驚きが用意された、非常に面白い作品でした。

絶筆ということで、本当に「(未完)」で終わっています。
大森先生の内容紹介によれば、「物語の背景は、「フランケンシュタインの怪物」をつくる技術が労働市場に応用されている改変歴史世界。」とのことで。
19世紀末のロンドンを舞台に。メスメル医師やヴァン・ヘルシング教授などなど、実在・非実在を問わず、有名人も多数登場。
「ワトソン君」って、最初、単なる偶然(の同姓)なのかと思ってたんですが。どうやら“本人”っぽい(笑)。
時代背景的に・題材的に、“切り裂きジャック”とかも出てきそうな感じで。
「霊素」とか「疑似霊素書込機」とか、ハッタリの効いた、でも実はSFらしき設定や。
伊藤先生の他の作品と同様に、ミリタリー・サスペンスになっていきそうな雰囲気もあり。
「病床で執筆していた第四長編『屍者の帝国』のプロローグにあたる。」とのことですが、続きがすごく気になる作品でした。


上記以外の作品も、そして大森先生の解説も面白かったです。