『戦う司書と世界の力 BOOK10』

山形石雄先生・イラスト/前嶋重機先生の、「戦う司書シリーズ」最終巻。
「ついに、感涙必至のフィナーレ!!」という宣伝文句は伊達じゃないです。
自分はしょっちゅう涙腺崩壊してしまって、このシリーズはやっぱり外では読めないなと、あらためて再認識させられました。
この「戦う司書シリーズ」をまだ読んだことない方は、ある意味幸せです。なぜなら、今なら安心して、全10巻を一気読みできるから(笑)。
文句なしに、素晴らしい作品・シリーズでした。


(残りの21行、ネタバレあり)

ハミュッツ=メセタ:「………ありえないのよ、チャコリー。思いやるだけで、変わるなんて」

まず、第9巻『戦う司書と絶望の魔王』での再登場以来、コリオが一体どういう役割を果たしているのか、この第10巻を読んでいても途中まで、ずっと疑問だったんですが。
彼自身、何の見通しもなく行動していて、言ってみれば、右往左往してるだけですし。
でも、後にマットアラストが語るような、「巡り巡って」雪だるま式に膨れ上がる、そんな「世界の力」を彼は体現してたのかな、と。彼のナイフが象徴的に示すように。
それから、ニーニウが最後ああいうふうになるなんて。予想もしていなかったですけど、胸にストンと落ちる感じでした。なるほど、その手があったか、みたいな。
「未来管理者」と「愛」との関係は、すごく深い・哲学的だと思います。
そして、最後のページ、特に最後の4行は、ほんとにきれいに、あまりにも見事にまとまっていて。
思えば、第1巻から一貫して、この構成だったのでした。(第1巻と第2巻だけ、名目上、これがちょっと崩れていて、そこが惜しいと言えば惜しいのですが(笑)。)
この物語は、いろいろな読み方が可能だと思います。
たとえばまず、様々な人々が織りなす、哀しくもいとおしい、ラブストーリーとして。
あるいはまた、手に入れては失いながら、それでも懸命に手を伸ばす者たちの、ファンタジーとして。
あるいはまた、すべての手がかりを読者の前に提示しながら、なお成立する、謎解き・ミステリーとして。
あるいはまた、メタファーの衣をまとった、人間の心・人生をめぐる、一種のSFとして……。
各キャラのストーリー、テーマ、構成、メッセージ。すべてにわたって、恐ろしいまでに考え抜かれた、良く出来た、そして何より、大変に面白い作品・シリーズでした。
あと、ついでながら。
スーパーダッシュ文庫ホームページの作家インタビューで、第6巻『戦う司書と荒縄の姫君』の話題が出てますけれど。
あの展開に賛否両論あるのはもちろん分かるんですが。自分はあれは、この作品のテーマに関わる、重要なエピソードだと思います。
あの後、エンリケが、「わかるな、アーキット」「俺とお前は――」と呟くところは、個人的に、シリーズ屈指の名場面・印象的なシーンです。
このシリーズ、名場面がほんとに多すぎて、困ってしまいますけれど(笑)。
さて、まだ、アニメ『戦う司書 The Book of Bantorra』のブルーレイ・DVD初回特典の短編集や、イラスト集(『SERENDIPITY 前嶋重機画集』?)が残っていますが。
とりあえず、本編の方は終了ということで。両先生とも、どうもお疲れさまでした。次回作も期待しています!