『サマー/タイム/トラベラー』

毎日あんまり寒いんで、ちょっと夏の話でも……というわけではないのですが(笑)。
2005年発行の、新城カズマ先生の星雲賞(日本長編部門)受賞作。全2巻。
新城先生と言えば、最新作『15×24』が、4ヶ月連続刊行(全6巻)という出版形式や、Twitterとの連動企画、そして何より、作品自体の面白さで評判のようですが。
それはさておき、以下、本作『サマー/タイム/トラベラー』の感想です。


(残りの10行、ネタバレあり)

貴宮饗子:――TTにおける最重要観念といえば? なにゆえ人はTTを夢想し、希求するの? TTの何が、私たちの魂をこんなにも揺さぶるの? さあ、答えは?

「TT」というのは作中の略語で、もちろん「タイムトラベル」のことです。
思春期の少年少女とタイムトラベルとは、どうしてこれほど相性がいいんでしょうか。その一つの回答を、この作者はこの作品で、見事に提示してくれたように思います。
物語としては、ふとしたきっかけで「時空間跳躍」能力に目覚めた幼なじみをめぐって、とある地方都市の高校生達が経験する、ひと夏の出来事がメインとなっています。
なんていきなり書くと、なんだか突拍子もないお話のように思えるかも知れませんが。
ところがこれが、実にうまいこと、ストーリーを展開していて。「時空間跳躍」能力という設定を、リアリティを持ったかたちで導入するのに、成功していると思います。
主人公達の目の前で、初めてヒロインが『跳んだ』場面は、彼らと一緒に、読んでるこちらも、おおっ!ってなります(笑)。
そして、それぞれの想いが交錯するなか、不穏な出来事・事件も一方で進行していて……、といった感じに続きます。
思春期特有の、万能感と無力感。可能性と不安。焦燥と先延ばし。選択と別れと、そして――。
もう二度と戻らない、愛しく切ない、高校一年の夏。巻末の「自註と、謝辞」にあるとおり、「これ以上ないくらいSFっぽいSF」で「もっとも素朴な青春小説」でした。