『かぐや姫の物語』

アルプスの少女ハイジ』『火垂るの墓』などで知られる、高畑勲(たかはた・いさお)監督の、14年ぶりとなる待望の新作。先週末、11月23日より全国ロードショー中。
(原作:「竹取物語」、原案・脚本・監督:高畑勲、脚本:坂口理子、音楽:久石譲、人物造形・作画設計:田辺修、美術:男鹿和雄、作画監督:小西賢一、制作:星野康二、スタジオジブリ。)


(残りの18行、ネタバレあり)
竹から生まれ、見る見るうちに美しい娘へと成長した主人公が、求婚者たちを次々と振ったあげく、満月の夜、迎えに来た使者とともに月へと去ってしまうお話。
“姫の犯した罪と罰。”――ということで、高畑勲監督の最新作は、日本最古の物語文学「竹取物語」に隠された、人間・かぐや姫の真実を描き出す物語。
まず映像的には、スケッチのような描線で描かれた人物と、淡彩であたたかな背景美術が一体化した、日本画のようなアニメーションが、手間かかってそうですごいです。
さらにそんな作画の前に、声を先に録り、その声に基づいて画を描いているらしく、それもあってか、声優が本職ではない役者さんの演技も、持ち味が出てて良かったです。
あと音楽に関して言うと、仏教美術に出てくる、仏様や天女のような姿をした、月からの迎えの使者の奏でる音楽が、場違いに脳天気な感じでかなり印象的でした(笑)。
さてストーリーは、育ての親であるお爺さんが、良かれと思って整えてくれた“幸せ”への道――都へ上り、立派な良家の姫君となる道を、かぐや姫は進んでいきますが。
そんな彼女のために開かれた祝宴で、かぐや姫は酒に酔った客の態度にショックを受けて、屋敷を飛び出してしまいます。
満月の夜道を必死の形相で、駆け抜けていく彼女でしたが、何となく見覚えのある山中で気を失う(遭難?)と――実はそれは、祝宴の最中に見た夢だったのでした。
そうこうするうち、美しいかぐや姫の評判はますます高まり、言い寄る男たちも多かったのですが。兄的存在の幼なじみが忘れられないのか、求婚はすべて退けていきます。
しかしついには、女として最高の幸せともてはやされる、御門の妻として迎えられることに……。
平安時代に栄華を極めた、藤原道長の作として有名な歌に、「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることの なしと思へば」というようなものがあります。
『かぐや姫の物語』公式サイトや劇場パンフの、高畑監督の文章を読むと、かぐや姫は清浄な月世界で罪を犯し、その罰として、穢れた地上に下ろされたらしいのですが。
しかしそうした設定から生み出された物語が表現しているものは、実は、何らかの理由で結果的に、その途中で自らの命を絶ってしまった女性のお話ではないのかなと。
彼女は子ども時代を早回しで再体験したのち、お爺さんが用意してくれた“幸せ”の道、自らもかつてたどろうとした“望月”(満月)への道を歩んでいきますが。
御門の妻という最高の“幸せ”、逃れられない運命を前にしてようやく、自分が満月の夜に月へ帰る、つまりは彼岸へ渡る、死ぬ運命にあるのを思い出すことに。
そしてその時点で初めて、わらべ唄や炭焼きの老人が教えてくれた、月の満ち欠けや巡り来る季節のような、喜怒哀楽のある人生そのもののすばらしさに気づくお話ではと。
大地に憧れた少女を通し、辛いことや大変なことがあってもやってみなければならない、みずからの“生”を力一杯生きることの大切さを伝えようとする、この作品。
“この世は生きるに値する”――この夏公開された宮崎駿監督の『風立ちぬ』とともに、25年ぶりの年2作品公開となるジブリイヤー、この機会にいかがでしょうか。